シーソー | ナノ





アレン・ウォーカー
特技:勉強全般、運動全般、感情を伴わない「笑顔」




「あ、あの、アレンくん…この問題、教えてくれない?」
4限目の授業が終わり、さぁ昼食だというこのタイミングで、同じクラスの女子(名前何だっけ。)が、のこのこと教科書を抱えて僕の前にやってきた。
僕はにっこりと笑顔を作り、お腹の中でこう呟いた。

あぁもう、反吐が出るほど面倒臭い。昼飯食わせろ。




  ♪シーソー 02




「あぁ、いいですよ。確かにこれ、難しい問題でしたよね。
僕もこれ悩んじゃいました」
そう言ってお得意の、少し困ったような笑顔を貼り付けてみる。女は「ええっ?そうなんだぁ!」と、ひどく嬉しそうに会話のキャッチボールを楽しむ。
…まぁ、そんなの口からでまかせなのだが。口八丁なのはご愛嬌、ということだ。
「こんな問題も分からないのかよ、小学生からやり直した方がいいんじゃないですか?」
なんて思っても、決して口から零さない。この学校での自分の役回りなんて、重々承知だ。

英国紳士。
イギリス人似つかわしく、女性には最たる優しさで接するのが僕の役目。例えその相手が、猿やパンダのような女であっても、だ。

「これは、ちょっとコツがいるんですよね…ほら、ここの部分がポイントになって…」
ね、解けたでしょう?
少し顔を近づけて、猿にも分かるように丁寧に教えてやる。途端、相手は耳まで真っ赤に染めた。分かりやすすぎて気持ち悪いくらいだ。

「問題教えて」なんて、所詮こじつけなのは百も承知だが、タダで教えてやろうだなんて、そんな甘っちょろいこと、この僕がするわけがない。こんな女のために僕は、秀才なる頭脳と最高の笑顔と貴重な昼休みを与えてやったのだ。それなりの見返りはいただかないと、なりに合わない。そろそろ解放してほしいし。


僕は、あたかも今思い出したかのように呟く。
「あっ、いけない…僕お弁当忘れてきちゃったみたいだ…」
「えっ、そうなの!?わたしのパンでよかったらあげるよ!」

案の定、易々と食い付いた。

「え、いいんですか!?でもあなたの分が…」
「いいの!気にしないで!勉強教えてもらったお礼!はいっ!」
女はそう言って、コンビニ袋からメロンパンとウインナーロールを出して僕に手渡した。


ほら、女っていうのは本当に馬鹿な生き物だ。こんなに単純で分かりやすくて操作しやすいものはない。欲を言えば、そのコンビニ袋に一緒に入ってるポッキーも献上してほしいところだけど。まったく、気の利かない女。

「すみません、ありがとうございます…優しいんですね」
仕方ないので、パン2こ分の笑顔はくれてやった。それだけで、女は更に赤くなって、逃げるようにして去っていった。

「……とりあえず、これだけあれば午後は足りるかな」
本日の昼食に足しができたところで、弁当箱とパンを引っ提げて、お決まりのメンバーの待つ屋上へ向かった。




「おーお疲れアレン。長いこと捕まってたなぁ」
「ほんと疲れました。ほんと面倒臭い。パンもらったからまだいいけど」
「うへぇ、相変わらず似非紳士さー。アレンだけは敵に回したくないわー」
「そんなに悔しかったらラビもやったらどうですか」
「オレがいつ悔しがったんさ?あ、そのパン新発売のやつじゃね?」
「てめぇ、いつか友達なくすぞモヤシ」

「アレンです、人の名前いつまで間違える気ですか。神田は脳ミソをどこでなくしてきたんですか」
「ちょっと、オレ今味噌汁飲んでるんだけど。脳ミソとか聞くとなんかすごいいたたまれないんですけど」
「あぁ、カレー食ってる時にうん○の話をしてるみたいな」
「ユウちょっと黙って!なに『なるほど!』みたいな顔してんさ!」
「ていうか水筒に味噌汁入れて持ってくる人を初めて見ました。まさかこんな間近にいるとは思いませんでしたが…」

「なぁ、そういえばなまえは?」
「あぁ、もうすぐ来ると思いますけど」
「ご、ごめん遅くなったー!」
「…ほんと空気読める子だわこの子」
「遅いよなまえ。ついでに飲み物買ってきて」
「え、ぇえ!?今来たばっかなのに!自分で行ってきてよー」
「もー、アレンくんはなまえをパシリに使いすぎよ」
「りなりー…!わたし、リナリーのいるこの学校に来て本当によかった!もうほんと大好き!」
「それ以前になまえがこの学校に入れたこと自体が奇跡だと思わないとね」
「なにを!文系トップをなめるなよ!」
「なまえこそ、学年トップなめんなよ」
「……あ、うん、すみませんでした」

僕が笑顔で毒を吐くと、なまえは蛇に睨まれたカエルみたいに、一気に弱気になった。何がトップだ、数学なんて毎回のように追試喰らうくせに。まぁ、英語と国語の成績がほぼ僕と互角なのは感心するけど。




空は快晴。
初夏の青空を天井にして、貸切状態の屋上で昼休みを過ごす。

ラビは味噌汁の入っていた水筒を枕に寝そべり、気ままに小説を読む。(読みながら僕らの会話に入れるのだから驚きだ)
神田はペットボトルの緑茶を飲みながら、「緑茶の成分って何だっけ、カロテン?」なんて馬鹿げたことを呟く。(カテキンだ馬鹿)

リナリーは「屋上って今の季節が一番気持ちいいね」と言って、携帯で青空の写メを撮る。(あ、飛行機雲…)


そして僕の隣にいる、幼なじみのなまえは
「アレン、今日の数学の小テストは補習にならなかったよ」
ありがとう、アレンが教えてくれたおかげ。
そう言って、はにかむようにして僕を見つめた。

隣でふわふわとなびく、茶色くて柔らかな髪からは、甘くて優しい香りが、ほんのりと風にのってきて、思わず触れたくなる衝動を、僕はぐっ、と手の中で必死に押し殺した。

「なまえくらいまっさらなアタマだと、教え甲斐があるよ」
パンに意識を集中させながら、そんな憎まれ口をたたくので精一杯だった。



これが、僕らの、なんてことない日常。



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