シーソー | ナノ


何とも後味の悪い電話の切り方だった。

「なまえ、電話大丈夫?」
「あっ、うん、ごめんね、」
慌てて携帯電話をぱちんと閉じたわたし。「さっ、やりますよ!」と自分に一喝して、心配する友達の背中をぐいぐいと押しながら教室に向かった。



これでいいの。
いつまでも、彼の優しさに甘えるわたしでは、いけないの。





 ♪シーソー 09





「…っあー、疲れたぁ」
各々の机をくっつけて、その上に散らばった、参考書や問題集。「それぞれの得意分野活かして、みんなで教え合おうよ」ということになったわたしたち元吹奏楽部員(ちなみにわたしは国語担当)。


「じゃあ、お疲れさまー」
校門の前でみんなと解散した後、一人だけ方向の違うわたしは、みんなの背中を見送ってから少し遅れて歩き出した。
「わー、日が暮れたなぁ」
「もう7時だもんな」

「……え、ちょ、両角くん何してんの」
一人だと思ったら、いつの間にか隣に立っていた両角くん。
「何って、言ったじゃん、遅くなったら送るって」
「…ああ!うん、それね、いいんだ、ただの口実だったから」
「口実?」
首を傾げて、どういうことかという表情を浮かべた両角くん。
アレンを納得させるために、わたしは「送っていってくれるひとがいるから」とアレンに嘘をついた。その言葉を、両角くんは聞き逃していなかったらしい。

「うん、でも、一人で大丈夫だよ。ごめんね気遣ってもらっちゃって」
じゃあね、と両角くんとも別れようとする、と、

ぱし、とその腕を掴まれた。


「…やっぱ、送る。実際暗いし、危ないし」
「いやいや、」
「それに、口実うんぬんの話も、詳しく聞きたいし」
「………なんで」
たらり、とわたしが冷や汗を垂らすと、両角くんはにや、と薄く笑って、
「だって、興味あるから」
そう言った。



「…で?どういうこと?」
「……言わなきゃだめ?」
「うん。気になる」

…どうやら、一歩も引くつもりはないらしい。わたしは諦めて、自分の恥ずかしい過去を話すことにした。


「…わたし、小学生のときからアレンと一緒に登下校してたの。けど、1回だけ一人で帰ったことがあって、そのときに、ちょっと変な人に絡まれたことがあったんだ」
ちょうど、今くらいの時間帯だった。
「その時も結局アレンが助けにきてくれたんだけどね。…それ以来、危ないからって、毎日わたしの帰りの時間まで待ってくれて、一緒に帰ってくれてたの。自転車通学になってもだよ。心配性でしょう?」
そう言って苦笑してみせると、両角くんは「…仲、良いんだな」と、前を向いたまま呟いた。
「幼なじみだからだよ。
…だからこそ、アレンも変に責任感じちゃってるところがあるんだよね」


そうだ、
アレンのそういう責任感の強いところとか、優しいところとか、そういうのに、わたしはずっと甘えてきていた。今も、アレンの重荷になっているのは間違いなくわたしで…。

「……毎日一緒に帰ってると、やっぱり、それをからかってくる子もいたんだ。それでもアレンは、わたしと一緒に帰ってくれたの」
からかってくる友達に、『へぇ、君もそんなに僕と帰りたいんですか?いいですよ、じゃあまずはカバン持ちしながら帰りましょうか。今日は辞書が4冊入ってて重いんですよねー。ちなみにジャンケンで負けたことないんですよね、僕。あ、あと特別ルールで、上り坂では兎跳びっていうオプション付きなんですけどそれでいいですか?』って言いながら、とびっきりの笑顔でランドセルを差し出していたアレン。その勢いに、友達の誰もが勝てなかった。そのおかげで、からかってくる子も段々減っていった。


「…大事にされてんだな、なまえ」
「でもね、嬉しい半面、やっぱりこのままじゃだめだなって、今になって思うんだ」

わたしばっかりが、アレンに頼ってる。ずっとアレンに助けられてきた。
吹奏楽の大会でもらったお守りを、ポケットのなかでぎゅう、と握り締めた。


「…いい加減、甘えるだけのわたしから、卒業したいの」


それが、きっと今のわたしに必要なこと。







じゃり、
小石の散らばったあぜ道で、両角くんの足が止まった。

「…アレン・ウォーカーから、自立したい?」
まるで最後の答えを確かめるみたいに、じっとわたしを見つめる両角くん。わたしは少し考えて、こくりと頷いた。


「…じゃあ、なまえがあいつと過ごす分の時間、俺にも分けて」
「…へ、」
「あいつと一緒にいた分、今度は、俺と一緒にいる時間にして」



ぎゅ、と、わたしの右手を掴んだ両角くん。

「…俺のこと、利用して」



…そう言い諭す彼から、わたしは目を逸らすことができなかった。

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