つむぎうた | ナノ


だいきらいだ
こんな自分、だいきらい。

もう何度目かわからない嗚咽を洩らし、寝返りをうつ。

嘘吐き
泣き虫
弱虫
未熟者
無能
役立たず
ばか
ばか、ばかばかばか!

思いつく限りの悪口を、自分自身に向かってぶつけた。だけど、所詮自家製の悪口は、製造機自体には傷をつけず、そのまま消化されていく。この無意味な攻撃に、脳は呆れかえってただ傍観しているだけだった。





ピンポーン、

「……ひどい顔ね」
「…元からこんな顔です」
「ばか、」
ドアを開けると、苦笑いを浮かべたリナリー先輩が立っていた。



しわしわの服にぼさぼさの頭で、泣きはらした瞼のわたしを見て、リナリー先輩はため息をついていた。
「――…やっぱり、思った通りだわ。何にもしてないじゃない。自分が病人だっていう自覚あるの?せめて着替えるくらいはしなさいよ、もう」
「リナリー先輩、おしごとは…」
「ちゃんと定時で上がってきたわ。なまえちゃん着替えどこ?ちゃんと水分摂らないと脱水になるわよ。ゼリーとかもあるけど食べられそう?」
そうか、もうそんな時間なのか。
がさがさとコンビニ袋を漁りながら(ていうか中に入ってるゼリーの量が半端ないんですけどリナリー先輩!尋常じゃないですその数!)、せわしく準備をしてくれるリナリー先輩。なんだかお母さんみたいだ。

着替えを済ませ、リナリー先輩が持ってきてくれたポカリとゼリーと薬を口に入れた。

「…なんか、すみません、色々とご迷惑をおかけして…」
「そう思うなら、早く元気になってね。みんなもすごく心配してたから」
「……はい」
「ちなみにね、そのポカリは李桂くんからのお見舞いよ。『早く戻ってこい』だって」
「そう、なんですか…」
李桂くん。ごめんね、わたし、迷惑ばっかりかけてるね。



「それと、この袋いっぱいのゼリーは、アレンくんからよ」
「……ウォーカー、せんぱい、から……?」


がさり、
袋の中は、ぶどう、みかん、もも、ありったけの種類を詰めました、というような賑やかさだった。
「仕事の合間を抜けて、コンビニまで走って買いに行ってたわ。……今日のはさすがにね、『言い過ぎた』って思ったみたい。謝っといてって言われたわ」
「……謝る、だなんて……」
悪いのは、わたしなのに。
「…でも、『そういう大事な言葉は、自分で本人に直接言いなさい』って言っておいたわ」
やんわりと微笑んで、リナリー先輩は続けた。
「弁護するわけじゃないけど、ああ見えてアレンくん、かなり余裕なくて焦ってるの。アレンくんにとって、今までで一番大きな仕事だし、プレッシャーもかなり感じてると思う。チームのリーダーとしてみんなをまとめることも、まだそんなに慣れてないわ。
だけど、今日のなまえちゃんのことだって、彼なりにきちんとフォローするつもりだったのよ。……アレンくんは、なまえちゃんが失敗したから怒ってたわけじゃないの」
「……じゃあ、どうして、」

「……頼ってほしかったんじゃないかな、なまえちゃんに」

リナリー先輩から出た意外な言葉に、わたしは小さく「へ、」と呟いた。
「熱があることだって、アレンくんの観察力を考えれば、多分誰よりも早く気づいてたと思うわ。…だからこそ、早くなまえちゃんから言ってほしかったんだと思うの。そんなキツい状態で、黙って仕事をするなまえちゃんが、見ていて辛かったんじゃないかな」
「……わた、し…」


「なまえちゃん、チームで仕事をするって、そういうことよ。一人で頑張ったところで、結局どうにもならないことだってあるの。そのために、チームがいるんだから」


「帰れって言ってるんだ!!」


そう言ったウォーカー先輩の顔を、思い出す。

怒りだけじゃない、ひどく、心配している表情が、あった。










ぱたん、

「―……ここまで来てたなら、自分で行けば良かったのに」
「…………」
「……アレンくん、頭、見えてるわよ」

「………それができないと思ったから、リナリーに頼んだんです」
「だったらそんな塀の影に隠れてないで、まっすぐおうちに帰りなさいよ、意気地なし」
「…リナリーには男心なんて分からないんです…っ!」
「当たり前でしょ、女なんだから」



自己嫌悪者が、ここにも一人。


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