つむぎうた | ナノ




ウォーカー先輩の髪、きれいですね。

以前、ウォーカー先輩にそう言ったら、「そう?よく若白髪だ、ってばかにされるよ」と苦笑された。ラビ先輩も、「アレンは若いのに苦労してるんさー」なんて言って、ウォーカー先輩に睨まれていたけれど。
白髪、というよりも、透き通るような仄かな銀色、色素の薄い灰色、光に当たると、白く反射して、きらきらするような。…『銀灰色』という言葉が、しっくりくる。気がする。そう、ちょうど、瞳の色と同じような、儚くて優しい、仄明るい銀灰色。

ほら、今も、窓から零れる光に、白く反射して、きらきら、きらきら、



「…じゃあ、よろしくね、なまえちゃん」
「…へ?」
わたしの素っ頓狂な声が、会議室に響いてしまった。(恥ずかしい!)
「ちょ、もしかして、聞いてなかった?」
苦笑顔のコムイさんから、たまらず目を逸らす。しまった、今は大事な部署会議中だった。
「す、すみません、ぼーっとしてて…」
まさか「ウォーカー先輩の髪に見惚れてました」なんて、言えるはずもなく。ちら、とウォーカー先輩を盗み見ると、わたしを見て、まるで小さな子どもを見守るような、優しい瞳で苦笑いを浮かべていらした。うわあぁー恥ずかし死にしそう!顔に一気に熱が集まって、茹だるような気分だ。

やれやれと苦笑しながらも、再度丁寧に説明してくれるコムイさん。

「えっとね、なまえちゃんには、新しいプロジェクトチームに入ってもらうことになったから」
「…え、わたしが、ですか?」
「うんそう、今回のプロジェクトは1,2年目の新人のみんなで固めてほしいんだ。リーダーはアレンくんだよ」

淡々と進むコムイさんの話に、わたしの頭はなかなか追いついていかない。
え、どういうこと、わたしがプロジェクトチームに入って、しかもリーダーが、ウォーカー先輩で、つまりは、一緒に仕事ができるってことで………あ、そういえば、今日のお昼に食べたAランチ、ウォーカー先輩と一緒だった!ってそこじゃなくて、ええっと、

「がんばろうね、みょうじさん」

未だ混乱する頭で、ウォーカー先輩の声をキャッチした。見ると、いつものように、優しくて、柔らかい笑顔を浮かべた先輩がいた。

「…よ、よろしく、お願いしま、す…っ」

どうしようどうしよう、うれしくて、視界が潤んだ。






。・゚*





「あれ、みょうじさんまだ残ってたの?」
定時をとうに過ぎた頃、ひたすらパソコンとにらめっこしているわたしを見つけ、ウォーカー先輩が声をかけてきた。先輩こそ帰らないんですか、って聞いたら、「ちょっとお得意様のとこに行ってた」と言われた。

「もしかしてそれ、今日頼んだプロジェクトの仕事?」
「あ、はい、できるとこまでやっておきたくて…」
「急ぎじゃないし、来週までにできればいいよ?」

「…わたし、嬉しいんです。このプロジェクトに関われることが、ほんとに嬉しくて。こうやって、ウォーカー先輩と同じチームで仕事できることも、すごくすごく、嬉しいんです」


「……え、」
ふと、先輩の声が聞こえて、パソコンから顔をあげると、そこには、なんとも言えない表情のウォーカー先輩。



……何気なく呟いた言葉が、実はすごく、恥ずかしい本音だったことに気づいた。
こんなの、先輩に「好きです」って言ってるようなもの、だ…!あわわ、はず、恥ずかしい!
「…え、えっと、だから、がんばりたくて!今のわたしにできる精一杯のことを、やりたいな、なんて…!」
そうなんです!つまりはがんばりたいってことなんです!

そう力んで説明すると、先輩の表情が、ふわ、っと柔らかくほぐれた。


「…うん、知ってるよ」

そう呟かれた言葉と一緒に、わたしの頭に、ぽん、と乗せられた手のひら。

顔が、心臓が、頭が、全身が、沸き立つように、熱を帯びた。


「いつも、がんばってるよね、ちゃんと知ってる」
「…そ、うですか…?」
「うん、みょうじさん、いつも早く出勤して、みんなのマグカップきれいにしておいてくれるでしょ。印刷機の用紙の補充も。よく気がつくなぁって思ってた」

…なんでバレてるんだろう。

「仕事も、色んなことによく気がつくようになったよね。ちゃんと勉強してるんだなぁって、コムイさんもラビもリナリーも、よく言ってるんだよ」
みんな、ちゃんと知ってるよ。
そう紡いで、ゆっくりと頭を撫でる、先輩の手のひら。



「……せんぱい、」
「ん?」
「…あの、とてもありがたいお言葉なのですが…あの…し、しばらく一人にしてくれません、か…なんて…!」
「…え?………あ、

……もしかして、照れてる?」

「っ!!や、ちょっ、顔覗かないでくださいほんとにっ!」
だめだ!心臓が止まる!もうわたし幸先短い気がする!!



「…っふ、ははっ!」

おそらく真っ赤であろう自分の顔を両手で隠していると、すぐ隣で、笑い声。

「な、なんだっ、急に俯いた、から、どうしたかとおも、思ったらっ…ふ、あはっ!」
「わ、笑い過ぎですウォーカー先輩…!ちょ、痛いです痛い痛い!頭叩かないでください!」
お腹を抱えて、変なスイッチが入ったみたいに笑う先輩。こんなに大笑いする人だったのか。ていうか人の頭をばっしばっし叩きすぎです。凹みます物理的に!

「はーっ…こんなに笑ったの、久々かも…!」
「わたしも、こんなに笑われたのは久々です…」
「ごめんごめん、拗ねないでよみょうじさん」
先ほどと打って変わって、優しく、ぽんぽん、と頭を撫でる先輩。

「…まぁ、えっと、僕が言いたいのはね、みょうじさんががんばってるのはみんな知ってるから、無理はしないでね、ってこと」
「……はい」
「よし、じゃあ、今日はもう帰ろっか」




うれしかった、だから、がんばろうと思ったの



(ま、また先輩と一緒に帰ってしまった…!)
(みょうじさん電車きてる!走れる!?)
(あ、あれ?デジャヴ…!)



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