05


「それって洋酒たっぷりじゃなくて、カカオたっぷりの間違いじゃない?」
「え、そうなのかい?」
「カカオたっぷりチョコレートだったら僕が毎年作ってるんだ。苦い苦いって言って、泣き出す子もいるほど好評なんだよ。これならルツ君っていう子も喜ぶと思うんだけど……どうかな?」
「はは!いいねぇ。じゃあそれを貰おうかな。何だか君とは気が合いそうだよ」
「僕もそんな気がするよ。僕の名前はライ。キミは?」
「僕はヨシュア。今はここからずっと西の異国にいるんだ」

 二人はそれからベンチに腰かけたまま、笑顔で談笑し始めた。ドS対談の幕開けである。シアはライのチョコレートを去年食べたらしく、確かにビターとかいう生易しいレベルではなく、もう苦い塊を食べているようで不覚にも涙ぐんだと言う。

「あれを食べさせられるとは……ルツって奴、不憫過ぎる。見た目は普通に美味しそうだから気づかねェんだよな」
「あの二人、思考回路が似てますね」
「おれも今年食べさせられるのかな……」

 シアが本当に苦虫を噛むような表情で話すのを見て、自分もシアと同じライの標的であることから今年の2月14日に不安を覚えるのだった。
 ドSな会話が弾む二人を痛々しい表情で見る三人の後ろで突如、女の子のものと思われる高い声がした。

「え?あれヨシュア?」
「……ほんとだ」
「よね!ヨシュアーッ!」

 後ろに居たが三人の存在には気付かず、噴水の下にいるヨシュアの元に駆けていったのは赤っぽい髪を揺らした女の子だ。そしてその後ろをとぼとぼ歩いていくのは薄い茶色のショートヘアの、細身の少年だった。その様子からして二人はヨシュアの知り合いなのだろう。
 ライと話していた当のヨシュアも二人の存在に気付いたらしい。

「あれ、ヒザシとルツ君じゃないか。どうしてこんなところに?」

 女の子の方がヒザシで、少年の方が噂のルツ君らしい。ライは思わず「あぁ、この子が」と呟いた。ヒザシと呼ばれた女の子は驚いた様子で、

「あたしはこの村においしーいチョコがあるって聞いたから14日のために、ルツと一緒に買いに来たのよ。あんたこそなんでここにいるの?」
「奇遇だねぇ、ぼくもだよ」
「え……?ヨシュアが?(嫌な予感)」
「とびきり美味しいのをライ君が用意してくれるらしいんだ。先にバレちゃうと面白くないから先に帰ってればいいさ」
「あ、そう……」

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