それは、とてもとても空の綺麗な日でした。

紫色の髪をしたおばあさんが1人、キコキコと椅子を揺らしながら居眠りをしていました。日当たりのいいその場所はおばあさんのお気に入りで、家事の合間にこうしてお昼寝をすることが毎日の日課となっていました。

「うわーん!チ、チシャ猫ぉぉ…」

突然、深緑色の髪をした少年が大きな泣き声を上げながらバタバタと部屋に入ってきました。彼は、この家で一緒に暮らしているおばあさんの宝物です。

「おやおや、また帽子屋にいじめられたのかい?」

「うぅ、ぐす…っ、うわーーーーっ!」

泣きついてきた少年をおばあさんは抱きしめてあげました。しかし少年は泣きやみません。それどころか、辛いことを思い出してしまったのか泣き声は更に激しくなってしまいました。

「今日は一段と泣き虫さんだねぇ。そんなにひどいことをされたのかい?…でも、帽子屋が理由もなしに人をいじめる子には見えないんだけどねぇ」

「う、うっ…!」

「そうだ。チェシャが楽しくなる魔法をかけてあげようね」

そう言うとおばあさんは、大きな手のひらで少年の頭を優しく何度も撫でてあげました。

すると、どうでしょう。
さっきまで泣いていたことが嘘のように、少年の泣き声はピタリと止みました。

そして、少年はぽつりぽつりと話し始めました。

「ぐすっ…あ、あのね、帽子屋がいじめて、くるのはね、ずっと前に、僕が、帽子屋の被ってた帽子を馬鹿にしちゃったからなんだ…」

「うんうん」

おばあさんは微笑みながら少年の話を聞いています。

「だから明日、謝りに行ってくるよ!」

少年はとびっきりの笑顔でそう言いました。


それは、とてもとても空の綺麗な日の出来事でした。

(遠い日の、色あせた宝物)

白兎とチェシャ猫のお話
(2010/03/01 16:52)

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