《ミハベ》

特別で1番


阿部君は、榛名さんの事になるとムキになる。
感情(かお)がハッキリするんだ。
それは、榛名さんが阿部君にとって
"特別な存在"で"1番"だからだと思う。
俺は、それが悔しいんだ。

「今日、調子悪いのか?」

投球練習中、阿部君はキャッチャーマスクを外して
俺に声をかけながら近くに来てくれた。
阿部君は、球で心が読める。
元気がないと心配そうに俺を見てくれた。

(心配して貰えてる。嬉しいな)

阿部君に構って貰えると元気になる。

「だ、い、丈夫、だよ!」

俺の顔を見て、本当に大丈夫だと安心したみたい。
阿部君から、笑みがこぼれた。

「そっか」

俺は、うんと頷く。

「ところでさ、俺、もう一つお前に聞きたい事があんだけど」
「な、に?」

阿部君が視線を外しながら、俺に問いかけた。

「お前最近、榛名榛名言わないけど何かあった?」

ドクンと心臓の音が鳴る。

(榛名…さん?)

なんで、榛名さんが出てくるんだろう?って困惑した。
榛名さん榛名さんってずっと言ってたのに
言わなくなったから気になったみたいに阿部君は言う。

(言わなくなったらダメなのかな?
それとも、榛名さんの事、聞いて欲しかったのかな?)

悲観的な方へ考えちゃう。

俺はただ、"榛名さん"を出したくなくて
黙ってただけなんだ。
なのに、"榛名さん"の名前は
阿部君の口から簡単にこぼれた。
それが、すごくすごく悲しかった。

(阿部君の根元にいる榛名さんは、やっぱり強力だ)

涙が1粒、地面に落ちた。

「え!?ちょっ?!三橋!?」

慌てる阿部君。
困らせたくないのに、涙の粒が次々と零れて止まらない。

"阿部君の心には、いつも榛名さんがいる"

激しい感情を出すほどの相手。
俺もそれくらい強く想われる相手になりたいけど
榛名さんには敵わない気がした。
でも…

(俺は榛名さんに、阿部君を取られたくない)

俺は泣きながら、そう思う。
強い強い想い。
マウンドを譲りたくない時と同じくらい強く思う。
だから俺は

(敵わなくても闘うんだ)

俺は涙を腕で拭いて、顔を上げた。

「三は…」
「俺は、榛名さんに、負けたく、ない」
「え?」
「俺、も、阿部君の、感情を、動かすくらい、阿部君の特別に、なり、たいんだ」

阿部君は、驚いた顔で俺を見つめていた。

「榛名さんよりもっと、阿部君の特別になりたい!
俺は阿部君の1番になりたい!」

勇気を出して気持ちを伝え、阿部君を強く見つめた。

(阿部君、俺は"特別(阿部君)"を、誰にも譲りたくないんだよ)


fin.

<あとがき>
三橋が榛名を意識している方向が、恋愛(そっち)にも向けばいい。
阿部にとって榛名は、確かに"特別な存在"(恋愛かは不明)で
それを自分でも分かってるけど認めたくない!
そんなジレンマをいつも抱えてると思う。
そこまで阿部が、強く意識する榛名に
三橋は嫉妬してたらいいねって事で今回の内容☆
「阿部君の意識や心も何もかも全部、誰にも取られたくない!」
ってくらい、三橋が阿部を愛してたら嬉しい。



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