《ミハベ》

2人の距離


分かれ道。

「今日、お前と話せて良かったよ。じゃあ、また明日な」

とチャリを動かし、背を向けながら手を振った。

「あ、阿部君!」

三橋の呼ぶ声に振り返ると
三橋が自転車のハンドルを強く握りしめながら、こっちを見つめている。
何か言いたそうにパクパクと口を数回動かすと、下を向いてしまった。

「言っ…」

"言いたい事があんなら、さっさと言え!"と怒鳴ろうとしたが
寸前で何とか止めた。
我ながら、だいぶ抑えられるようになったと自分を褒めてやりたい。

「…どうした?」

普通のトーンで声をかけるが、三橋は下を向いたまま。
やっぱりムリ!と声を張ろうした瞬間、三橋が

「お、俺も、あ、阿部君、と、一緒にいれて、た、楽し、かったよ!」

と、バッと顔を上げてそう叫んだ。
今日の感想的な発言に、俺は口元を上げて言葉を返す。

「ああ。俺も楽しかったよ」

三橋は"嬉しい""良かった"みたいな顔をして、更に俺に言葉を返した。

「デ、デート、みたい、だった、ね!」
「!」

これには、さすがの俺もビックリだ。
俺は三橋の発言に、思わず目が開いた。

「ご、ごめん、いきなり。
じゃあ、お、俺帰る、から///」

立ち尽くした俺を残し
顔を赤く染めながら、そそくさと逃げ帰って行く三橋。
俺はそんな三橋の背を、ただ黙って見送った。

ハッと我に返ると
体全体が熱を持った事に気づく。
顔もハッキリ分かるくらい真っ赤だろう。

(何んだよいきなり!?デ、デートだぁ?!///)

俺はつい、心のなかで叫んでしまった。
確かに俺達は最近、"そういう関係"になった。
だけど今日は、まったくそんなつもりはない。
ただ、バッテリーとして交友関係を深める意味合いで誘っただけだ。
たぶん、三橋もそれを分かってるんだ。
アイツは「デート"みたい"」と言った。
と言う事はデートじゃないと分かってるわけだ。
いや、アイツの事だ。
もしかしたら、「デートなんておこがましい」とか思ったのかも。

(いやいや。今はそんなんじゃなくて!!)

とにかく、そう"まっすぐ"に言われると
今更ながら、"恋人"という関係を改めて意識しちまう。

(テンションが上がったのは、"デートみたいだ"と思ってたからだな。
ああ、なるほど。だからあんな嬉しそうに、しかも流暢に話したのか///)

それに気づいた時、嬉しさが込み上げて
俺は緩む顔を片手で隠した。

(アイツの"まっすぐ"は、アイツの球と一緒でちょっと厄介だ)

俺は顔を隠していた手を自転車のハンドルに戻し
闇夜で輝く星の方へ顔を上げた。

(次は、ちゃんと"デート"でもするか)


fin.


<あとがき>
予想もしない出来事に阿部は弱そう。
特に"まっすぐ"な気持ちをぶつけられると
かなり心に"来る"んじゃないかと思います^^


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