《ノーマル》

安心・榛名視点


呼吸に合わせて、タカヤの背中が小さく揺れる。

(あ、コイツ。俺を起こす前に寝やがった)

シニアん時から、たまにこういう事があった。

俺は体を起こし、タカヤの顔を覗くとやっぱり寝てた。

(確か、関東の試合の前日も…)

ふと、関東の試合が頭を過ぎる。

「今すぐマウンド降りる」

俺がそういうと、タカヤはすぐ黙りこんだ。

(あのセリフ、あの頃はよく使ってたな)

練習中にも、あまり煩い事をしつこくいってきた時は

「もう投げてやんねぇぞ!?」

って怒鳴ってやった。その時もタカヤはすぐに黙った。

(うるさいタカヤを黙らすには、1番効果的だったからな。
何度使ったけ?わかんねぇくらい使ったよな)

変に懐かしい気持ちになって
外した視線をタカヤに向ける。

(あの時の俺は、そのセリフでタカヤが黙ると嬉しがってたんだよな。安心してた)

"コイツは、俺から離れない"と思えたから。

離れる気があれば、俺が「投げない」「降りる」と言っても
タカヤなら「勝手にすればいい」って言うだろう。

でも、タカヤは黙った。
その度に

"ああ。コイツは俺から離れない"
"俺を必要だと思ってる"

って感じられたんだ。
それを感じたくて、何かあると呪文のように
お決まりの言葉をタカヤに言ってた。

(性格悪かったなオレ)

タカヤの頬っぺたを突つく。
「ん〜」と眉間にシワを寄せて唸るだけで、起きやしない。

「投げない」「降りる」

でも、今はそんな風に確認しなくてもいい気がするんだよな。

(つーか、今はもう言えねぇけどさ)

寂しさと同時に、どこか感じられる安心感。

俺は、1度離れた背中にまた寄りかかって、静かに目を閉じた。


"コイツは、俺から離れたりしない"




*次はあとがき。




[*前] | [次#]



oofuri TOP



戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -