こげて散った真昼の星は、ずっとお日さまになりたかったんだって

けれどいくらもえてばくはつしてもお日さまにはなれなくて

毎日毎日あれたようにばくはつしてはじぶんのからだをちいさくこがしていったんだ。














寂しくて泣いていた日も、遠く蒼天にきらきらと光っていた。


毎晩いくら眺めても降る事もなくただそこにあってまるで星同士が話している様をただ眺めているようだった。


お日さまは自分には眩し過ぎて、あかるすぎて真っ当で真っ直ぐで1番遠い存在で


照らされる者と照らされる事の無い者と、本物で偽物の自分は間違いなくずっと今も、この先も後者だと思っていた。



あの子に出会うまでは……























3月、卒業と言っても盛大に式をするわけでもなく来賓があるわけでもなく俺達は慣れ親しんだこの場所でささやかな式を行っていた。

小さなお別れ会と呼んだ方がしっくりとくるかもしれない。


お世話になった園の先生達や姉さんにそれぞれが挨拶をしてそれぞれがテーブルの上に既に虫食いになった料理をつまんだり、泣いたり、思い出話をしたりまるで昔みたいに園が賑やかになったようだった。


この場所だけはずっと変わらなくてただ思い出だけが亡霊のようにそこに立ち止まっていてこっちを見ては寂しそうな顔をして、けれど体や気持ちだけは留まることを許さない。


まだ何も知らなかった小さな俺が、どうしてそんな顔してるのって頭を小さな手でなでた気がした。


「おーい!ヒロトもこっちこいよー!」


聞き慣れた声にはっとして振り向くと緑川が砂木沼と話ながら手を振っていた。


「あぁ!今行くよ」







「あれ、南雲と涼野は?」


「先程から姿を見ないが…相変わらず又どこかへ消えたのだろう」


「まぁあの2人がいたら喧嘩してるかつっかかられるかなんだしオレは居ないほうが安心するけど…」


「はは、鬼の居ぬ間にってところだね」


久々に懐かしいメンツとの再会だった事もあり今までの色々な事を報告しあった。WWIでの事、進路の事、他の幼馴染み達の事。


ふと緑川と目が合った、まるで何かを訴えるような目で見つめてくると思えば


「あっそうだあの公園久しぶりに見に行ってみよっかなー」


いきなりだった、突然の話題転換に俺も砂木沼も声の主を凝視してしまう。


「そうか、私は瞳子監督に話があるのでな遠慮しておく」


「うんそっか!じゃ瞳子さんに宜しくな」


と、俺の意見も聞かず緑川に腕を掴まれて部屋を飛び出していった。


こいつの行動力とゆうかこうゆう所、俺はたまにびっくりしてしまう。









「ヒロト!そんな顔してたら心配するって」


「え…?」


「だからー、眉毛が下がってる!いつもはもっとこうピーンてなってるだろ」


一生懸命目を吊り上げようとする緑川に思わず笑ってしまった、と同時になんだか例えようがなく泣きたいような逃げたいような気持ちだった。



あぁ、お前には隠せないね…




それからどれくらい経っただろうか、空が焼けてゆくのを見ながら俺達はこの場所までよく抜け出して探検したよなとか話してただベンチに座っていた。


気付くとオレは何故か泣いていた。止めようと堪えようとするほどそれは止まってはくれなくて緑川に気付かれないようじっと地面を睨んだ。


隣にある影が消えて暫くしてから自分の影に重なったと思った瞬間なにかがひらひらと目を掠めて落ちてきた。


宵闇にそれは白くて、小さくて地面に滲んだ


「卒業おめでとう、ヒロトのさ…本当の卒業式だな」



大切な人が降らせたそれは


あたたかで苦しい、砂混じりのさくらの雨。


目の前に立った彼は笑っているような泣きそうな顔をしていた気がするけど視界が滲んでもう、よく見えなかった。


「俺、ヒロトが本当に笑ったり怒ったり泣いたりするようになって本当に良かったなって居場所が見つかったんだなって思ってさ…エイリアに居た時は本心から笑ってるようには見えなかった」


何て言えば良いのか何が当てはまるのか言葉が思うように出てこない、ありがとうじゃない、肯定の言葉でもない、そんなものじゃないのに上手く言葉にして言えないんだ。


「覚えてるかな…俺さ、お前が憧れてた星なんかじゃなかった。何にもなれなくてでもそれが怖くてただ…皆が期待する"基山ヒロト"を演じていれば安心出来てそれが自分の居場所なんだと思い込んでた」


「ヒロト…」


俺は星になんかそんなものにはなれなかったし自分の居場所を見つけるために自分を守るためだけに期待に応えようとしたただの臆病者なんだよ。


"本当のヒロト"と自分は姿形は似ていたものの性格はまるで逆だったし


父さんや姉さんは"ヒロト"について進んで話す事をしなかったし自分も聞こうとはしなかったけどそれでも否応なしに伝わる彼の存在していた面影を感じる度に自分の中で自分が消えてゆくような気がしていた。


父さんに認められないといけない、父さんが求めているのは自分のようなヒロトじゃなく明るくて常に
皆の中心で、何でもそつなくこなす、父さんや姉さんを喜ばせられる"ヒロト"なんだ。


俺は俺のままでいいんだと言ってくれたけど、父さんが失くしたのは求めているのは自分ではなく"ヒロト"なんだ。父さんはそう言ったけどきっと心の中では哀しんでる、残念だと思っているに違いなかった。


頑張らないと、頑張って皆の理想の"ヒロト"にならないと俺が存在する理由なんて居場所なんて無かったんだ。


「それに寧ろ俺は…お前にずっと憧れてたのかも知れない」ひたすらに真っすぐで正直者なお前に。









―でもさ、何で星って光るんだろうな?


うん…吉良のおじさんがいうには"ばくはつ"してるからなんだって。いちばんあつく燃えてる星ほど青くって強く光るものなんだって言ってたよ


―えっ!ばくはつ!?でもばくはつしたら消えちゃうんじゃないの…?


ううん、その星がもえつきるまでは消えないよ。すごいよね、ばくはつしてるのを見てるんだって思うとさ


―ばくはつかぁ…!なんかかっこいいなぁ!それにすごいなぁヒロトってなんでも知ってるんだな!


偶然だよ、吉良のおじさんが持ってきてくれた本の中に天体の話があってさ。それを読んだだけだから


―そっかでも俺漢字苦手だからたぶんそれ読めないだろうなぁ。いいなぁやっぱりお日さまじゃなくてお星様になりたくなってきた!


ははっお星様になりたいなんてはじめて聞いた。でも緑川はお日さまの方が似合うかもね


―うーん…あ、じゃあオレがお日さまならお星様はヒロトだね!物知りだしかっこいいし!


俺がお星様……でもばくはつは出来ないよ?


―ばくはつは光ってるって事だろ?じゃあオレのあこがれのヒロトはお星様ってこと!



そう言ってにっこり笑うその子は今日と全く同じこの場所で流れ星を見見つけに行こうと俺の手をひいてくれた小さな男の子。

あかるくてまっすぐで
そのこはまるで
まひるにうかぶ
お日さまみたいだ


いい子で居たくていつも上手く立ち回っていた自分が初めて怒られた日だった。


「勿論全部覚えてるよ。一緒に抜け出して色んな所いっただろ?あの時ヒロトさ、本当に楽しそうに笑ってくれてた。だから怒られても全然良かったし秘密基地作ってそこで色んな事教えてくれたり…その時から今までずっと変わらずオレの憧れはヒロトだったよ」


詰まっていた言葉が解けてゆく気がした、そうだ…俺はずっとずっと昔からずっと

「緑川…」


皆のじゃない、誰かの、大切なひとりだけの一番星になりたかったんだ。


いつの間にか少し風が出て桜の木と緑の髪を揺らした

空にはまだ明るい薄闇のなかいびつな月が出ていた。



父さん、俺は父さんが言っていたような星にはなれなかった。


でもね、大切な人の為だけに光る星にならなれる気がしているんだ。


そう言葉にするより先に緑川の腕を引き寄せていた。
そのまま唇を合わせるとしょっぱくて彼も同じように泣いていたのだと分かった。


ねえ緑川やっと分かったよ。


「俺さ…ずっとこの先も緑川の一番でいたい、緑川だけの一番でいたいんだ」


詰まったその言葉は


言いたかった言葉は、やっぱりありふれていてこんなにも簡単で難しかった






"ありがとう"







「…もうばかだなぁヒロトは、何回も言わせないでよね。そんなもの既になってるよ」



こがれて落ちた星が出会う日に

大切な気持ちを教えてくれた君の手をひこう。






―ねえヒロト!このまえのおはなしまた聞かせて、あのお星様の!


いいよ、あのね。こげて散った真昼の星は、ずっとお日さまになりたかったんだって

けれどいくらもえてばくはつしてもお日さまにはなれなくて

毎日毎日あれたようにばくはつしてはじぶんのからだをちいさくこがしていった

そんな星をずっと見ていたお日さまはある日こう言ったんだ


おまえはまよなかのお日さまになりなさい、おまえがいなくなっては誰がくらやみをてらすのだと


それにきづいた星はねそれからは前みたいにばくはつするのをやめたんだって、おしまい


―なんでお星様はお日さまになりたかったんだろ?



そうだね、たぶん…お日さまにあこがれてたからじゃないかな。






fin





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