部屋の、殺風景な寮の自室にかかる時計の針音が落ち着かない。


―午後10時前

もうすぐリュウジのバイトが終わる頃だ。

また今日もきっと、帰宅するのも待たずに電話をかけてくるに違いない。

第一声は、何してた?って多分言うだろう。

そして俺は五回目の呼出し音で電話にでる、きっとそれも違いない。








ヒロトside










高校生になってもうなん十回いや、なん百回にもなるだろうリュウジとの電話。

はじめのころは名字で呼んでいたのも、ある日を境に下の名前で呼ぶようになっていた。

寮といっても都内から新幹線で2時間程の距離な訳で、授業も生徒会の仕事もない週の土日は朝からリュウジに会いに行く

この二年間ずっと続けている俺達の約束だ。

初めのころは昨日緊張し過ぎて寝付けなかったとか言いながらリュウジは、よく遅刻してきたんだっけな。

途中も凄く眠そうでそれでも一生懸命目を開こうとしたりして眠たいならもう帰ろうか?って聞いたら、むきになってくるのが堪らなく可愛くてわざと何度も聞き返した。

なにか落ち着かず携帯電話の写真フ
ォルダとゆう名のリュウジフォルダを見返す。

買い物に行ったり、リュウジの部屋で一日中一緒にいたりして毎回欠かさず写真を撮っていたら図らずとも自分の携帯がそんな事になっていた。

リュウジに見せたらきっと嫌がって、今すぐ消せとかヒロトきもいとか言うから本人には言ってないけど。

それでも二人で撮った写真を待受画面にしている事は知ってる、何だかんだ言ってリュウジもそうゆうことが好きなのだ。

エイリアに居た時より格段に表情が明るくなっている今のリュウジの写真を見ながら安心する反面、会いたくて堪らなくなってしまった。


触りたい、キスしたい今すぐ。


数分後には声が聴けるけど、声を聴くと余計に会いたくなってしまうから。

と、呆けるていると画面によく見知った名前と振動が意識を戻させる、落ち着いて平静を装わなければ。



「お疲れ様、リュウジ」






やっぱり俺は五回目の呼出し音で、電話口の愛しく可愛い恋人は、いつも通りに声を弾ませた。


言わないよ、絶対に。

お前の写真みてたら会いたくなって堪らなくなってた、なんて事。


「うげっ…進路か…」

この話題になると途端に不
機嫌な声になるんだ、この電話口の恋人は。


勿体ないなと思う、リュウジは本を読むのが昔から好きだったし国語だとか古文だとかの成績は他に比べれば格段に良くて、いわゆる見た目によらず文学少年だ。

何事も好きな気持ちからだと思うんだけどね。

その張本人は未だに自身の良さに気付かない、いや自信を持てないままでいるらしくて。

さっきから蛙の踏まれたみたいな声を出して反抗するリュウジに、俺は思わず笑った。

そしてそれと同じくらいに彼が不機嫌になる事、俺の進路の話だ。


皆とサッカーで勝ち進んで行く中でも自分は最終的にこの道を選ぶのだろうとゆうことも知っていた。

友人達も俺がサッカーを辞めることを悔やんでいたし、リュウジも例外ではなく。

父さんと姉さんも、自分の好きな道を選びなさいと言ってくれていた。

だれに圧力をかけられた訳でもない、俺は俺の意志で父さんの跡継ぎになる事を選んだ。

それが唯一の父さんと姉さんへの恩返しであって自分の生きる意味で存在価値だと思っている。


始めの方はリュウジも興味津々で聞く癖に、次第に表情が険しくなって、もうそうなったら最後

何かと言葉が刺々しくなり、俺につっかかる。

その行為が焦りから来るものなのか、他に何かあるのか本当の所は自分にも分からないし理由を尋ねても言葉を濁す。

つっかかる癖に、本心を見せようとしない。

逆に心に触れようとすれば、全身を強張らせて必死に自分を護って気付いてほしい、気付けよって全身で訴えている事に本人は気付いていない。

そんな所も昔から全く変わっていない。

彼がもっと人に頼っても罰はあたらない筈で、もし誰にも頼れないなら俺に頼ればいい。

そんな中途半端な悲鳴をぶつける位ならもっと見せて、もっとぶつけて。俺は、お前の醜さや弱さも全部に触れたいんだ。



リュウジの嗚咽が聞こえはじめて数分経とうとしていた。

正直びっくりして、あんな意固地なリュウジが自分に気持ちをぶつけようとしている、途切れ途切れで日本語になっていない言葉もあったけどそれでも俺は嬉しくて、今まで我慢していた独占欲や嫉妬やどろどろした自分の汚い気持ち全部が溢れ出てしまいそうになった。

泣いてないだとかうるさいとか反抗してみてるけど、リュウジは泣いている、俺が触れられない、抱きしめて大丈夫だよって言ってあげられない所でたったひとりで。

彼が居るはずのない静かなだけの部屋に、震えて溢れているきみの残像をうつせば堪らなく触れたくて言ってしまいたくて、ずっと隠そうと思っていた汚い思い。

出来る事ならいつも隣に置いて誰にもお前を見せたくないんだ誰にも笑いかけるなよ、話し掛けるなよ、お前の涙も全部飲んでしまって全てが俺の一部になればいい。


物理的に無理なのは承知だけど、リュウジとなら子供だって作れそうな気持ちでいる、馬鹿にされてもいい。毎日行為に及んでお前をぐちゃぐちゃに掻き乱してしまえば絶対に不可能とは言えないだろう。

だってこんなに好きなんだ、絶対無理だと誰が言える?


ねえ、俺も堪らなく怖いんだ。

気持ちが重過ぎてお前がしんどくなってしまうんじゃないかとか、愛想つかされるんじゃないかとか。

好きな気持ちはどこまでが許されて、どこからがいけなくなる?


そんな事を考えて、いつも自制をかけていた。

適策だと思ってしていた事がお互いを、リュウジを不安にさせてしまっていた。


もし俺の全部をお前が受け止めてくれる日が来る事があるなら俺は間違いなくお前を喰らいつくし
てしまうだろうね。

流石に全部は言わないよ、だけど…


電話口の向こう、リュウジは嗚咽混じりに半信半疑の声で頷く。


リュウジ、大丈夫だから泣き止んでそして、俺から離れて行かないでずっと好きでいて。


次にもし泣いてしまう事があるならば、それは俺の隣で。






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