「リュウジ…?どうしたの?何かあった?」













緑川side








ただいまの通話時間、約1時間48分くらい。

そしてさっきから会話を止めて何分か、その無言の張本人はオレだ。

バイトが終わってヒロトからのメールを見て帰宅するまでも待てずに通話ボタンを押した。

オレ達は高校生になって二回目の夏を迎えていた。

ヒロトは都外の完寮制進学校へ、オレはお世話になってる叔母さんに少しでも迷惑にならないようにと公立に通いながらバイトも始めていた。

中学の時みたいに毎日会うことはままならないけど、それでも週に二回だけの自由時間を使ってオレに会いに来てくれる。

電車で頑張っても2時間ちょっとだから遠距離とも言えないけど、やっぱり会いたいときに会えないことは、お互いにお互いを不安にさせた。

早くヒロトの声が聞きたい、今日はどんな事があったのか早く聞きたくてたまらなかった。


「もしもし、リュウジお疲れ様」

よく知ってる声、会いたくてたまらくてじんじんしていた体中にすんなり響いて勝手に顔がにやけてしまう。

「ヒロトも色々お疲れ様!なにしてた?」

俺は今日の復習だよ、そう言う声はいつも通り落ち着いたものだったけどどこか弾んでいる気がしてオレも嬉しくなってしまう。

「あ、そういえばリュウジのとこももうすぐ進路調査提出だろ?この前から何か進んだ?」

「…う、げっ」
うげってなんだよとか笑いながら電話口の彼は笑っている。

「笑うなよなー…進路決まってるヒロトにはどうせわかんないよ」

いつも何が可愛いのか全く理解できないがヒロトが可愛いと言う膨れっ面をしてみる。

今更だがヒロトは頭が良い、恋人の贔屓目だけじゃなくかなり良いんだと思う。

「また膨れただろ?俺がいないときにそんな可愛い顔したら駄目だよ」

「膨れてないし」

そしてちょっと恥ずかしい事を平気で言ってしまう人だったりもする。

「俺さ、父さんの跡継ぎになる事決めたんだ」

さっきのからかうような声色から少し低くなる、同時に又だ、胸がざわついた。


痛い


「あ〜ヒロトやっと決心したんだな!んーやっぱヒロト頭良いし父さんも瞳子さんも喜ぶと思うし!うん!じゃあ今年の夏休みからあんま会えなくなるって事か〜まぁオレも稼ぎ時つってね」


どうしよう


痛い、痛い


きっと彼も凄く悩んで決心したんだとそれ位は自分にもわかる。

いつか言われた事があった、リュウジは傷付くと饒舌になるね。

お互いがお互いの顔を探せない沈黙の中できっとヒロトはオレの気持ちを感じ取って困っているに違いなかった。

いつか同じ様に言ったことがあった、逆にヒロトは何か思ってる時無口になるよな。

「…」

駄目だ、頭では分かってるのに口が止まってくれない。

「まぁ、ずっと一緒とか言ってもこの先お互い何があるかわかんないしヒロトだって跡継ぎっていったら結婚とかしなきゃいけなくなるじゃん?オレも叔母さんには世話になったしさ…恩返し的なさ…俺達やっぱ男同士とかってまずいかなぁなんて思っ…」

携帯をもつ左手が汗ばんで震えた。

まるで喉が心臓を脈打ってるようだった。言葉を吐こうとしても嗚咽に止められて通り過ぎる車のライトが花火みたいに乱れた。


「リュウジ、泣いてるの?」


どうしようもない位に好きで好きで大好きで、その"好き"が行き着く所はどこだろう。
いくら好き合ってるからって言っても男同士は結婚出来ないし子供だって作れない、もし叶うならオレが女になってヒロトと結婚してずっと一緒にいれるようになればとか馬鹿な事考えたりもした。

ヒロトは優しい、本当に。
毎回困らせるのはオレで喧嘩して(って言っても一方的にオレが爆発するだけ)何を言っても許してくれる。

でも、その優しさがたまに不安になるんだよ。

「ねえ、リュウジ。さっき言ったことは本当にそう思ってるの?」

「ヒロトが…ヒロトがそう思ってるんだろ…!」


…情けなさすぎる、自分で勝手に妄想して不安になって爆発して、そんなやり方でしか気持ちを探れない。

「ねえリュウジ、ちゃんと聞いて。俺達の事は時を見計らって父さんや姉さんに言うつもりでいる。本当は今直ぐにでも言ってしまいたいけど今はお前も俺も大事な時期で混乱させたくない」

電話越しにやれやれとでも言いたそうな彼の顔がみえた。

「…え」

涙とか汗でぐちゃぐちゃになった脳みそのまま地面にしゃがみ込んだ。

「だからね、俺が大学に受かってから言おうと思ってるってお前には言おうと思ってたんだけど」

通行人が見てるだとか警察に補導されるかもだとかはもうどうでもよかった。

「でもそんな事一言もオレには言ってなかっただろ!」

「そんな事言ったらお前は絶対反対してただろ?男同士がなんたらとか言って。でもさっきお前が言ってた事が本心なら俺は諦めて…お前が本当の意味で幸せになれるのを応援しようと…思ってるよ」


ヒロトは優しい、本当に優し過ぎて毎回困らせるのはオレで。
ヒロトは本当はどう思ってる?

いつかお互いに世間的にもいい人が出来ることを願ってるの?

オレの事しか考えてないってずっと一緒に居ようって何回も言ってくれたけど本当は、ヒロトはどう思ってる?


好きって言うなら

オレのこと好きって言うなら

「す、好きって…」

他のものなんか見れない位に要らない位に、もし反対されても手を引っ張ってオレを連れていってよ。

ずっとずっと心のどこかがたまらなく


「ごめんリュウジ、もう一回い…」


ざわついて


「ば、ばか野郎…!すきってゆうなら…オレの事好きってゆうならこの先もずっと一緒にいるって絶対っていえよ!ヒロトがオレ以外んとこ絶対いかないって…オレにも他んとこ行くなって絶対だっていえよ…!」

一瞬、電話口越しにヒロトが固まったのがわかった。

お互いの顔が見れずに、会いたいって知りたいんだって全身で君を心の中で探って、探って。

さっき少し収まったと思ってたのに気持ちが止まらない、どうしようきっとヒロトは呆れてる、困ってる。


「じゃあさ、言うよ。お前の負担になるかもしれないと思って言わないようにしてただけなんだけどね…。本当はお前を俺以外の誰にも見せたくないし見てほしくないし俺以外のとこに行ったら許さないからね」


「ふ…ふーん、てか行くわけないだろ」

とか自分から吹っ掛けときながら急に恥ずかしくなってきて嬉しくて嬉し過ぎて一生懸命に気のない返事をしてしまう。


この先、何が起きるか分からないのは事実だし


「だから、俺が居ない所で泣かないで。抱きしめたくてもすぐ近くにリュウジが居ないのは凄く俺もつらいしそれに他の奴にそんな顔見せるなよ」

考えたくも無いけど心変わりも絶対に無いとは言い切れなくて

「はいはい、見せないし誰も見ないって!」

にやけてるのか泣いてるのか怒ってるのかもう何がなんだかわからない表情を感づかれないようにしておいた、つもり。


それでも


「もう納得した?危ないから早く帰る事、わかった?」

「わかってる…って、あ、家につくまで電話切るなよ!」

はいはい、と言いながらやわらかく笑うヒロトの顔が浮かぶ。


他のものなんか見れない位に考えられない位に要らない位に、もし反対されても手を引っ張ってオレを連れていってよ。



好きよ好きよと言うならば総て喰らい尽くすようにあいして



それでさ、もし死んじゃう時がきたなら俺を殺していいのは君だけだってゆう約束をつくろうか。




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