短編 | ナノ
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「"僕より先に死ぬなんて許さない"……って言葉はさ、とっても残酷で自己チューな言葉だよね」

僕は、ぽつりと独り言のように呟きながら、テレビの電源を消した。

僕より先に死ぬなんて許さない。
それは、ドラマや小説なんかで聞く言葉で、今流れていたドラマの中でも、有名な俳優が彼女役の女性に向かって放っていたものだった。涙ながらに訴えられたその言葉によって、彼女は自殺をやめ、二人で支え合いながら強く生きていくというハッピーエンドの物語。そんな虚像の世界でのちっぽけな出来事は、僕の冷えきった心を温めることもなく、なんの感動も残さなかった。
もしも、自分の恋人が自分より先に死んでしまったら……。そう考えるだけで耐えられないから、ああいう言葉が出てくるのだろう。もしくは、自分よりも長生きして欲しいという勝手な我が儘か。どちらにしろ、これは相手のためを思っての言葉ではなく、自分本意に考えているからこそ出てくる言葉なのだ。だって、考えてもみてほしい。例えば、相手がその約束を果たすことなく自分より先に死んだとしよう。そうしたら、残された自分はどんな気持ち?悲しい?守れなくて悔しい?自分より先に逝った相手を恨む?…………違う。そうじゃない。残るのは、ただの喪失感と虚無感。他には何もない。涙さえ、出てこない。
こんな思いを、あの言葉を放った人間は、自分の恋人にさせようとしてるんだ。ねぇ、なんて残酷な人たちなんだろうね。僕は、こーちゃんにこんな思い、させなくて良かったって思うよ。

「まぁ、だからって、これで良かったとも思わないけどね」

暗い部屋の天井を仰ぎながら呟いた言葉は、もう誰にも届かない。届けるべき相手は、昨日煙と共に空の上へと逝ってしまった。残ったのは灰だけで、直接触れてみても、それが僕の恋人であるとはどうしても思えない。ただわかるのは、こーちゃんがもう僕の傍にはいないということ。
突然の事故だった。こーちゃんは、僕の目の前で信号を無視して突っ込んできた車に撥ねられて、呆気なくこの世を去った。僕が彼の手を引いて自分の方に引き寄せていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。後悔したって仕方ないのはわかってるけど、こーちゃんのいない世界はとても寒くて、暗くて。

「こーちゃん。やっぱり、どっちかが先に死ぬのは残酷なことだね」

どちらか一人が残るなんて、僕には耐えられない。こーちゃん、きっと怒るだろうな。なんでこんなことしたんだって。でも、怒られてもいいや。そうやって、もう一度君と会えるなら……。

「待っててね、こーちゃん」

僕は、フッと口許に笑みを浮かべると、そのまま足場にしていた椅子を思いきり蹴飛ばした。

- END - 





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