短編 | ナノ
※こーちゃんは名前だけです




俺の想い人である晃一くんには、彼氏がいる。相手は、晃一くんの幼馴染み兼親友である、あきら君だ。
幼馴染みや親友の席だけでなく、恋人の席も占領してしまったあきら君。俺の恋は、想いを告げることもなく終わりを迎えた。
彼らが付き合っていることを知ったのは、1ヶ月くらい前のこと。3人で教室に残っていたときに、なんとなく疑問を口にしたのがきっかけだった。

「お二人は、付き合ってるんですか?」

その言葉に晃一くんは固まり、あきら君は今さら?というような顔をしていた。言葉にされなくても、反応や表情を見れば答えは明白だった。あぁ、俺の恋もここまでか。ここは、大人しく引き下がろう。俺は、そう思った。……このときは。


それから何日か経ったある日、俺は帰り際に、あきら君に呼び止められた。わざわざ晃一くんを先に帰してまで、俺になんの用があるというのだろうか。普段話すことが多いとはいえ、こうして改まって2人で話すことなどないだろうに。俺は、そんな風に軽く考え、いつも通りに柔らかい口調で、何の用ですか?と問い掛ける。しかし、返ってきた声には、意外にも明らかに敵意が含まれていたのだ。

「いんちょーさ、こーちゃんのこと好きなんでしょ」

俺の前に立っている少年は、本当によく知るあのあきら君なのだろうか。そう思うほどに、彼の目は冷えきっていた。晃一くんに好意を寄せる者に対して、そんなことは赦さないと言わんばかりの冷たい視線。こんな彼の表情を見るのは、初めてのことだった。でも、そんな彼の一面を目にしても俺は妙に冷静で、気付けば相手の神経を逆撫でするような言葉が口をついて出ていた。

「……そうですね。俺は晃一くんが好きですよ。でも、晃一くんのことを好きな人なんて、たくさんいるでしょう?彼、人気者ですから」
「そういうことを言ってるんじゃないよ。こーちゃんのこと、付き合いたいとかキスしたいとか、そういう意味で好きなんでしょって言ってんの」
「いいえ、そんなことないですよ」
「嘘つき。いんちょー、こーちゃんのことよく見つめてるじゃん。そのときの表情みてればわかるよ」
「……さぁ、なんのことやら」

あきら君は、思ったより鋭いようだ。まさか、俺の気持ちに気付いていたなんて。そして、もっと意外だったのが、嫉妬心むき出しのこの言動。冷たかっただけの視線は、今や憎悪の感情さえ含んでおり、苛立ちを抑えきれていない。怒り、嫉妬、憎悪。そんな負の感情が剥き出しになっているあきら君は、とても無邪気な少年とはいえない。俺は、そんな彼の様子を見て、密かに優越感を感じた。晃一くんをいとも容易く奪っていった彼が、俺が晃一くんに好意を抱いているというだけで、余裕をなくしているのだ。余裕がないから、自分がずっと好かれる自信がないから、俺にそんな話をするんでしょう?あぁ、なんて滑稽な様なんだろう。こんな男に、俺の愛する人が奪われているなんて。

「ねぇ、いんちょー。こーちゃんのことは「あきら君」」

晃一くんのことは潔く諦めるつもりだったが、もうそんな考えは吹き飛んだ。

「俺のこと、放っておいてくれませんか。俺のすること、抱く感情に文句をつけないでほしいんです」

俺は、きっと心のどこかであきら君を恨んでいたのだろう。


「じゃないと俺、」


だからこそ、彼より優位に立てることが、こんなにも嬉しいのだ。





「晃一くんを襲うかもしれないですから」

- END - 





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