短編 | ナノ
※君と僕。9巻 scene40の話




高校生にしては味気ない京都への修学旅行も、気付けばもう2日目の夜を迎えていた。今日は、小ザルが熱を出して留守番をして、祐希にイラッとさせられて、てきとーに土産を買って。そんなことをしていたら、あっという間に1日が終わっていた。今日はもう、あとは寝るだけだ。けれど、布団を敷いていたとき、思いがけない人物が部屋に姿を現した。

「あれー?東先生じゃん。どうしたのー?」
「先生、二日酔いだったんだってー?ダメじゃん」
「はは、ホントその通りだね。……あー、えっと、塚原くん。ちょっといいかな?」
「え?あ、はい…」

塚原何やらかしたんだよー!という言葉に見送られ、先生と一緒に部屋を出る。友達が言うように、何かやらかした覚えはない。強いて言うならば、昨日清水寺で小ザルをかるく叩いたり、宿を抜け出して舞台を見ていたりはした。…でも、宿を抜け出したことに関しては、もう説教をくらっているし、何よりあんな泥酔状態だったこの人が、言い方は悪いが、俺を説教できる立場にあるとも思えない。それなら、何故呼び出しをされたのか。思い付くことと言えば、1つくらいしか浮かばなかった。

「先生。あの、二人で抜けるのはちょっと…マズくないですか?」

二人になる時間がないというのはたしかに寂しいものだが、だからといって俺たちの関係がバレるような行動は、してはならない。説教でないのなら、思い付くことなど二人きりの時間を少しでもいいから作るということ以外に考えられず、先生に戻ることを伝えようとした。しかし、先生は俺の言葉が耳に届いていないようで、自分の部屋につくなり周りを確認し、早く入って!と俺の背中を押した。
どんだけ我慢が利かないんだこの人は。とにかく、ここに長居するのはマズい。点呼は一応終わっているが、部屋のやつらが騒いで他の先生が注意でもしに部屋に入ったら、一発アウトだ。早くここから出なきゃ。部屋に入るなりそこまで考えた俺は、先生に断りを入れて部屋を出ようとした。しかしその瞬間、先生は俺の肩をガッと掴んできたのだ。突然のことに、俺の頭はかるくパニックになる。
え、ななななに?なんなんだよ、こんなとこでどうしようって…っ。

「要くん、どうしよう!橘くん、要くんのこと恋愛対象として好きかもしれない…!」
「…………は?」

あまりに突拍子もない先生の言葉に、俺は混乱した。小ザルが…なんだって?え?先生、なに言ってんだ?何をどうしたら、小ザルが俺を好き?とかそういう話になんだ?からかってんのか?
どうしようもなく慌てる先生を見て、どうやら今の言葉が冗談で言ったことではないということだけは、理解できた。でも、どうしたらそういう話になるのか、さっぱりわからない。そんなこと、天地が引っくり返ろうとあるはずがない。もしそんなことがあるなら、それはもう事件だ。そのレベルの話だと、俺は思う。それに、万が一、奇跡だかなんらかの間違いが起こって、仮にその話が本当だったとして、何故それを先生が知ってる?あり得ない話に、俺は呆れるしかなかったが、あくまで先生は本気なようでひたすら、どうすればいいんだろうと頭を悩ませていた。もはや、何を悩んでいるのかすら理解できないが…。

「あの、先生。何がどうなって、あの小ザ…千鶴が俺を好きって話になったんですか?」
「あ、あの、あのね!橘くんと今日、恋愛系の話になってね、そのときに言ってたんだけど…」

東先生曰く、小ザルの好きな人とやらが、どうやら相当怒りっぽくて、一緒にいるとすぐ叩いたり怒ったりして、大概は拗ねた顔してる、笑顔のレアな可愛いやつらしい。何で先生と小ザルが恋バナなんかしていたかについては、敢えてツッコまないが、なるほど。これを聞いて、先生は俺だと思ったのか。たしかに、俺はあいつに対してよく怒るし、叩きもする。でも、可愛くねぇし、そんな笑ってない覚えもない。これは、やっぱ勘違いだ。

「先生、それ「ね!?これ、絶対要くんのことだよね!?」」
「いや、だからそれ勘「あー、どうしよう。絶対そうだよ。要くん、すっごく可愛いもん…」」
「………け」
「あっ、でも、要くんのこと、橘くんには譲らないからね!これは絶対!」
「……人の話を聞けー!!」

テンパって1人話続ける先生を、思わず怒鳴り付けた。相手が驚きに目を見開き、黙ったところで俺は話を始める。

「先生。それ、絶対勘違いですよ。あり得ません」
「いやいや、そんなことないよ。だって、特徴思いっきり要くんと被ってる」
「被ってたとしても、それは俺じゃありません。あいつの好きなやつ、あの人って確信はないですけど、ちゃんと女ですから」

1人だけ思い当たる人物が頭に浮かび、たぶんそいつのことだろうと予想をした。まぁ、小ザルの好きな人なんて別に興味はないけれど、俺だと誤解されるのだけは困る。先生も、おかしな人だ。普通に考えたら、男が好きなのは女だろう。そう考えるのが、一般的だ。身近に同性が好きな人など、そう何人もいるものではない。それに、たとえ小ザルが俺を好きだと言い出しても、関係ないじゃねぇか。だって俺は…

「先生。誰が俺を好きでも、俺は東先生が好きですよ」






(どうしたって貴方以外を)(好きにはなれない)

- END - 





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