短編 | ナノ
「もしも君が転校してこなかったら、君は僕以外の人を好きになってたんだよね?」

向かい側に座るあきらが、真っ直ぐにこちらを見て、静かにそう言った。突然の質問に戸惑うものの、あきらはただ黙ってこちらをじっと見つめてくる。俺の答えを、待っている。
普通に考えれば、もしも俺が転校しなかったら、あきらとは出逢わないわけだから、好きになるもならないもない。それ以前の問題なのだ。出逢わなければ、好きになんかなれないし、あきらという存在を知ることもない。
だから、結論を言ってしまえば、俺は他の人を好きになっていたということになるだろう。けれど、俺は想像できなかった。あきらのいない生活。あきら以外の、女の子と付き合う自分。あきら以外の幼馴染み。すべてが、想像することすらできないのだ。それほどまでに、あきらといることが当たり前であり、俺の人生には必要不可欠ということなのだ。
そこまで考えてみて、俺は先ほど導き出した答えが間違っていることに気付く。
違ったんだ。これは、そもそも…

「…質問が間違ってる」
「え?」
「転校しなかったら、たしかに俺たちは出逢わなかった。でも、それは4年生の時点での話だ。きっと、俺は転校してなくても、何らかの形であきらに会うよ。だから、誰か他の人を好きになる結末は、最初から存在しないんじゃないかな?」

自分の理想でしかない結論だった。
なにがなんでもあきらを見付ける。それは、ただ俺が他の可能性を考えられなかったから、無理矢理導き出した答え。本当のところ、出逢わなかった可能性だって、絶対にあるはずなのだ。でも、俺はそれを全否定する。…いや、全否定したいんだ。
俺の答えを聞いたあきらは、キョトンとしていた。しかし、一度ぷっと吹き出すと、そこからは可笑しそうにくすくすと笑っていた。
そんなあきらを見て、なんだか今言ったことが恥ずかしくなり、俺は笑うなよと小さく呟いて俯いた。

「ふふっ、こーちゃんって、意外とキザだね」
「うるさいな…」
「でも、ありがとう」

そう言ったあきらは、とても優しく微笑っていた。

- END - 





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