短編 | ナノ
そよ風の心地好い春の日に、僕らは校庭を歩いていた。今日は入学式で、他の生徒たちは足早に学校を去っていったから、今この校庭には君と僕の二人きり。

「あきら、まだ帰らないのか?」
「うんっ、もうちょっとー!」

後ろで僕を呼ぶ声に答え、タタタッと駆け出す。そして、桜の雨の中へ。大きな桜の木を見上げれば、風に吹かれた花びらがひらひらと舞い落ちてくる。
そんな様子をボーッと眺めたまま、僕はこーちゃんに問い掛けた。

「…ねぇ、こーちゃん。落ちてくる桜の花びらを掴むことができたら願い事が叶うって噂、知ってる?」
「いや、知らないな」
「そっか。…こーちゃんは本当だと思う?」

桜の木から目を離し、こーちゃんを見つめる。いきなり質問をしたせいか、最初はきょとんとしていたけど、直ぐにいつもの優しい表情に戻った。

「信じれば、叶うんじゃない?」
「信じれば、か…。それなら、僕は信じてみようかな」

伸びをしながらもう一度桜の木を見上げる。相変わらず、桜の雨は止むことはない。その中で僕は、手を伸ばして花びらを掴もうとするけど失敗。あれ?意外と難しいのかな。
願い事を叶えるため、花びらを追い掛ける僕にこーちゃんは、あきらの願い事は何なの?と聞いてくる。だけど、僕はこーちゃんに教えるつもりなんてない。
だから、笑顔を向けて「いつか教えてあげる」とだけ言った。



願い事

(僕の願いは)(君の傍にずっと居ること)

- END - 





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