短編 | ナノ
「なぁ、みんな、聞いてくれよ。俺、彼女ができちゃった!」

要の家で集合していたとき、唐突に千鶴は満面の笑みを浮かべてそう言った。
春は素直に良かったですね!と喜ぶものの、俺を含めた3人は特に反応を示さなかった。要に至っては、反応を示さないどころか目も合わせない。そんなくだらない嘘に付き合ってられない、というところだろうか。

「…あのさ、千鶴。嘘はもっと現実味のあるものにしな?」
「なっ!?」
「千鶴に彼女とかないから。少なくとも触角が生えてるうちはないから」

悠太と一緒に憐れみの目を向ければ、千鶴はたいそう機嫌を損ねたようで、俺にだって彼女くらいできる、とご立腹。春は、ようやく騙されたことに気付いたらしく、一人苦笑を漏らしていた。
あっという間に、1つ目の嘘終了。エイプリルフールなんだから、誰か(特に千鶴)が嘘をつくんじゃないかと予想はしていたけど、まさかこんな簡単に見破れる嘘をつくなんてね。彼女ができました。よりも、実はアリではなくバッタだったんです。の方が、まだ騙されたのに…。そんなことを考えてたら、いいことを思い付いた。これは、暇潰しにはちょうどいいかもしれない。

「そういえば、要は最近、愛しのママとデートしたの?」
「はぁ!?お前さ、いい加減にその恋人設定やめろって。俺達は、親子なんだよ!」
「へぇ…、恋人じゃないんだ?」

俺の遊びに気付いたのか、悠太も便乗してきた。要は、だから親子!と俺達を怒鳴りつける。
まんまと罠にはまったとも知らずに。

「…今日って、エイプリルフールだよね」
「ってことは、要が親子だって言ったのは嘘ってことでー」
「えっ、え!?要っち、要っちママとの恋仲認めちゃった!?」
「要くん…やっぱり…」

俺達の反応に、要は慌て出す。
まったく、お馬鹿さんだよね。こんな簡単な罠に引っ掛かっちゃうなんて。しかも、かなり無理矢理なのに、本気で違うとか力説してるし。
まぁ、その遊びも、からかい過ぎた千鶴と俺が頭を叩かれて終わったんだけどね。叩かれた頭をさすりながら、今度は悠太に目を向ける。そして、俺は一言だけ呟いた。

「…嫌い」

俺の突然の一言に、悠太は少しだけ悲しそうな顔をした。本気でないとしても、さすがにこれは悪かったかな。でも、今日だからこそ、この言葉は言っておかなきゃなんだよ。

「祐希くん、嘘でも嫌いはダメですよ」
「…俺も祐希が嫌い」
「ちょ、悠太くんまでっ」

春が一人慌てる中、俺達は澄ました顔で嫌いと言い合った。ついでに要には、かおり先生は要が好きだったって、とだけ言っておいた。
嘘だと分かりながらも顔を真っ赤にする要と、それを面白がる千鶴と、あわあわしている春。
いやー、これは面白い。十分にエイプリルフールを楽しんだところで、俺はそろそろいいだろう、とさも今思い出したかのように爆弾を落としてやった。

「あ、そういえばさ、エイプリルフールについた嘘って、絶対叶わないんだって」
「「「え?」」」

それまでの騒ぎが、嘘のように静まり返る。
千鶴に至っては、そりゃもうびっくりするくらい分かりやすく、顔色を変えていた。
あちゃー、言っちゃいけなかったかな?

「ゆ、ゆっきー、それ嘘でしょ…?」
「…悠太に聞いてみれば?」
「ゆうたん!」
「そういう噂はホントにあるよ。だから、俺と祐希はいつまでも仲良し兄弟ということで」

表情をまったく変えずにそう言い切った悠太の言葉に、千鶴は本格的に焦り出す。
春は可哀相なくらいにその被害を受けていて、泣きべそをかく千鶴にがくがくと揺さ振られていた。要は、なんかね、うん。少しへこんでるように見えなくもない。
悠太と俺は、そんな3人を事が収まるまで眺めていた。





(嘘をつくのは)(よく考えてから)

- END - 





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