短編 | ナノ
梅雨も明け、本格的に暑くなってきた今日この頃。お昼を屋上で過ごすには少しキツくなってきたけれど、日陰に入ってみれば、意外と涼しく、心地良いものだった。
早めに昼を食べ終わった俺は、日陰でのんびりと寛ぐ。今日は騒がしい千鶴も、癒しの春も、ツッコミ番長の要も各々の用事でいない。でも、問題なのは彼らじゃなくて…

「ゆーたー、あつーい」

ところ構わずくっついてくる祐希だった。

「祐希くん、そりゃあ暑いでしょう。こんな風にくっついてたら」
「だぁーって、悠太とくっつきたい気分なんだもん」
「…暑い。苦しい。離れて」

前に回された祐希の腕を掴み、引き剥がそうとするものの、頑固な彼はまったく離れない。むしろ、さらにきつく抱きついてくる始末で、暑苦しさが半端ない。じわじわと汗が滲み、Yシャツが体に張り付いて気持ち悪い。
祐希は、こんな状態でよく人とくっつきたいと思うよね。お兄ちゃん、尊敬しちゃうよ。祐希を離そうとすれば、それだけ体力を使うから暑い。祐希を離さなければ、それはそれで暑い。あーもー、どっちにしろ暑いことに変わりはないんじゃん…。ハァ、とため息をついて、俺は無駄な抵抗をやめることにした。祐希に後ろから抱きつかれる形のまま、空を眺める。今日は雲一つない快晴。絶好のお洗濯日和ってやつかな。…って、高校生が洗濯日和とかおかしいか。
そうだな、他に言うなら…

「デート日和…」

なんとなく、思ったままに呟いてみた。すると、祐希はそれまで俺の肩に埋めていた顔をゆっくりと上げ、まじまじと俺の横顔を見つめていた。

「なに?」
「いや、悠太、そんなに俺とデートしたかったの?」

うん、どうしてそういう解釈になったのかな?そりゃあ、最近デートなんてしてなかったから、したいかと言われればしたいけど。

「ね、ゆーたっ。今日、デートして帰ろ」

他の誰にも見せたことのないような、ふわっとした表情で微笑い、祐希は俺に誘いの言葉をかけてくる。
こんな表情で誘ってくるなんて、反則だ。これじゃ、絶対に断れないじゃないか。不覚にも照れてしまい、よけい熱くなった頬を隠すように俯く。そして、ぼそりと俺はひねくれた言葉を口にしたのだった。

「祐希が、アイス奢ってくれたらね」




(暑いと感じるのは太陽の光のせいか)(それとも…)

- END - 





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