短編 | ナノ

「あきらさん、お誕生日おめでとうございます」
「えー、なんで君たちが知ってるのー?もしかして、僕のストーカー?」
「んなわけねぇだろ!」
「東先生が、教えてくれたんですよ」

僕がこーちゃんに会いに穂稀高校の職員室に行くと、あの仲良し5人組がいた。そして、何故か教えた覚えのない誕生日を祝われるという、不思議体験をしているところである。

「もー、こーちゃん!人の個人情報勝手に教えないでよ!プライバシーの侵害だよ!」
「そんな大げさな……」

こーちゃん曰く、僕のために用意していたプレゼントの包みをこの子たちに見つかったらしく、彼女への贈り物だろうと決め付け盛り上がるので、今日が僕の誕生日だということをバラしたらしい。まったく、勝手にバラされた僕はいい迷惑だ。これは、この子たちからも何かもらわないと割に合わないよね?

「で、君たちは何をくれるのかな?」
「え、大人が子どもにたかるんですか?悠太、この人こわーい」
「ね、こんな大人にはなっちゃいけないって思うよね」
「誕生日は、誰にでも平等にやってくるからね!」
「それらしく言ってんじゃねぇよ!」

誕生日を知ったら、プレゼントをあげる。これ、常識じゃない?
こーちゃんとお花飛ばしてる子は、ありんこさんを宥めるのに手いっぱいだし、双子くんはもう興味を失ったのか、ぼんやりと外の景色を見ている。残る眼鏡くんは、どちらにも混ざる気はないのか、一人離れたところに立っていた。その様子を見て、僕は眼鏡くんの元へと歩み寄る。彼は、怪訝そうな顔をして「何か用ですか?」と問いかけてきたけど、僕はそれに答えない。首を傾げる彼を少し見つめた後、僕は素早く眼鏡を奪い取った。

「すきあり!!」
「え、ちょ!?」
「僕への誕生日プレゼントはこれでいいよ、眼鏡くん!ありがとね!!」
「はぁ!?ちょ、返してくださいよ!!」
「おぉ、あきらさんわかってますね。俺、協力しますよ」
「祐希ー!てめぇ、協力する方間違ってんだろ!」

さぁさぁ、鬼ごっこの開始だ。事態に気付いたこーちゃんも追いかけてくるけど、僕はそれを無視して校内を駆け回る。学校の廊下を走るなんて、何年振りだろう。そういえば、高校生のときに廊下を走って怒られたことあったっけ。
懐かしい日々を思い返し、自然と口元が緩んだ。僕を追いかけながら叱るこーちゃんも、まるで高校生のときみたいだ。ほら、女の子が憧れの東先生の姿じゃないこーちゃんを見て、びっくりしちゃってる。
おろおろとしつつも結局僕を追いかけてくるお花を飛ばしてる子に、この状況を楽しんでるありんこさん。僕に協力してくれる双子の弟くんと、それを呆れた顔して見てる双子のお兄さん。そして、目を細めながらも頑張って僕を追いかけようとしてる眼鏡くん。こんなことしてられるのも、今のうちだけだよ?すぐ大人になるんだから。
走りながら後ろを振り返り、彼らとの距離が縮まってきていることを確認する。足の遅い僕が捕まるのも、時間の問題かな。逃げ切るのは無理だと判断し、僕は双子の弟くんに眼鏡をパスした。そして、そのまま階段を駆け下りて廊下の窓から脱走する。木陰に隠れながら、まだ鬼ごっこを続けているだろう彼らに小声でエールだけ送っておく。こーちゃんには、あとで怒られちゃうだろうな。でも、楽しかったからいっか。呼吸が落ち着いたところで、僕は立ち上がって校門へと向かう。きっと、もうすぐ僕がもう逃げ出したと気付いたこーちゃんが出てくるだろうから。
校門の前で校舎を振り返り、窓越しに見えた彼らの姿に、僕は一言だけつぶやいた。

「楽しかったよ、プレゼントありがとう」

- END -





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