短編 | ナノ

「どうしよう……」

あきらの誕生日が明日に迫っているにもかかわらず、俺は未だになんのプレゼントも用意できずにいた。小学生の頃から、これまでずっと一緒に過ごしてきた幼馴染み。けれど、彼の言動については理解の追い付かない部分が多く、日々頭を悩ませている。そして、好きなものについても同様だ。もちろん、あきらがお菓子やヒーローzなどを好んでいることは知っている。しかし、男子高校生の誕生日プレゼントにそういったものをあげるというのは、いかがなものだろうか。俺的には、ないと思う。それに、きっとそんなものをおげれば、彼からは「こーちゃん、僕のこと子ども扱いしてんの?いくら好きだからって、これはないでしょ」と言われてしまいそうだ。だからこそ、彼へのプレゼントは慎重に選ばなくてはならない。せっかくのプレゼントも、喜んでもらえなければ意味がないのだから。でも、俺に残された時間はもう少ない。このままでは、何をあげるか決められずに誕生日当日を迎えてしまいそうだ。

「やっぱ、本人に聞くしかないのかなぁ」

本人に聞くのが、一番手っ取り早いとは思う。その方が、本人の欲しいものをあげられるし、確実だ。けれど、できれば当日までプレゼントが何かというのを秘密にして渡したい。そんな葛藤を数分続けたのち、俺はあることを思いつく。
これなら、あきらの欲しいものを事前に聞き出さなくても渡せる。運がいいことに、明日は日曜だし、これなら……!俺は、急いで電話を手にし、あきらの家へと掛けたのだった。






翌日、俺はあきらと電車で少し遠出をしていた。着いて直ぐはそこら辺をぶらぶらと歩き、昼になる頃に「本屋に寄りたいから、あきらは近くでお昼食べる店を選んでいてほしい」という理由を付け、デパートへと足を運んだ。店内に入れば、家族連れの客が多く賑わっている。駆け回る子どもを注意する親の姿を横目に見ながら、あきらは「店の中で大人しくしていられないなんて、やっぱ子どもだよね〜」と呟く。それに対し、レジに持っていく前に商品を食べ出すあきらもさほど変わりないと思いながら、俺たちは書店のある階を目指した。
エスカレーターの前で、俺たちは一旦別れることとなった。あきらは朝食をとるレストラン探しへ。俺は書店へ。書店に向かいつつ、俺は本当に昨日自分の考えたことが上手くいくのだろうかと不安を抱き始めていた。買い物となれば、あきらは大抵いつも何らかの物をねだってくる。お菓子だったり、服だったり、それはもう色々。いつもはお菓子くらいなら買ってやるけど、その他のものは断っている。だから、今日は何をねだられようと買ってあげることで、それをプレゼントにしようと考えていたのだ。しかし、今日はまだ何もねだられていない。ここに来るまでの間にも、様々な店があったというのに、あきらは何も欲しいとは言わなかった。まさか、今日に限って何も言ってこないつもりじゃ……。

「あきらにかぎって、それはないよな……?」

一抹の不安を覚えつつ、俺は単行本を1冊購入してあきらの元へと急いだ。
あきらと食事をしてからも、特に目的もなくデパート内を歩いて回った。ときどき店内に入っては、商品を眺める。その繰り返しをしているだけで、特に欲しいものはないようだった。それどころか、愛想の良い店員さんがあれこれと勧めてくるのに対し、「そういう商品の押し売りはよくないよ。僕にも好みってもんはあるんだしさー。ゆっくり見させてよ」と言い出だす始末で、俺は謝罪の言葉を残し、店員さんの冷ややかな視線を背中に受けながら、あきらを抱えて店を飛び出したのだった。そんな風に過ごしていると時間の経つのは早いもので、徐々に店内にいた客も帰路につき始めていた。段々と客の少なくなる様子を見て、あきらは「そろそろ僕たちも出よっか」と俺の手を引く。俺は、そんなあきらに従うしかなかった。

「うわーっ、寒いねー」

外に出ると、冷たい空気が一気に体を冷やした。ポケットから手袋を取り出し、マフラーに顔を鼻まで埋めるあきら。準備が整うと、俺に再度手を差し出し、「いこ」と俺の前を歩き出す。
結局、なにも買ってやれなかった。なにが欲しい?と言い出す機会はたくさんあったのに、その言葉すら出てこなかった。プレゼントを渡すときに言おうと思っていたから、まだおめでとうすら言っていない。なにやってんだ、俺……。
後悔している間にも、駅はどんどん近づいてくる。電車に乗ってしまえば、それこそ買ってやるものも限られてしまう。今から……今からでも聞かなきゃ。

「あ、あきら!」
「ん?」

俺の少し前を歩いていたあきらが、足を止めてこちらを振り返る。そんな彼の顔をまっすぐに見れず、俺は少し俯き気味に問いかけた。

「あきらはさ、その、何か欲しいもの、ない?」
「え?欲しいもの?」
「うん、欲しいもの」
「……何でもいいの?」
「いいよ」
「じゃあ、こーちゃん」

あきらの言葉を理解するのに、少し時間がかかった。というより、わからなかった。あきらは、俺の名前呼んだんだよな?え、そのあとに続く言葉は??「じゃあ、こーちゃん。○○が欲しい」って、そういう風に何か欲しいものが続くんじゃないのか?ただ、呼んだだけ……?
考えてもわからなくて、顔を上げてあきらの表情を窺うけれど、そこから読み取れるものは何もない。

「えっと、何が欲しいの?」
「だから、こーちゃん」
「え?」
「こーちゃんが欲しいの」
「……どういうこと?」

再度聞いてもよくわからなくて、俺は首を傾げた。俺が欲しいとはどういうことだろう?それを聞いた俺は、どうすればいい?
あきらの言動は理解しがたいことが多いけれど、ここまで訳がわからないことは初めてだ。困惑しながらじっと見つめ返してみるけど、彼が冗談を言っているようには思えない。俺たちだけ時間が止まったかのように、お互い何も発さず身動きもしなかった。そんな俺たちの横を、人々は怪訝そうに視線を送りながらも通り過ぎていく。そうして、どれくらい経った頃だろう。あきらが、俺に一歩近寄り、口を開いた。

「で、くれるの?くれないの?」
「え、あ、いや、その、意味がよくわからないんだけど……」

テンパっている俺を、あきらは静かに見上げる。そして、ため息を一つこぼし、俺のマフラーを引き寄せた。

「だから、付き合ってくれるの?って聞いてるの!」
「つ、付き合う……?」
「もう、まだわからないの?こーちゃんが好きです。付き合ってくださいってこと!」
「……っ!?」

ようやくあきらの言っている意味がわかり、体温が一気に上昇する。だって、普通あれが告白とは思わないだろ。……って、あれ?俺、なんでこんな心拍数上がってんの?俺とあきらはずっと幼馴染みで、でもあきらは俺のことそれ以上の感情で好きで。俺の好きは?俺の好きは、どっちの好き?幼馴染みとして?それとも?
しばらく考えてみて、俺はようやく自分の気持に気付く。そっか、俺は……。

「……あげる」
「ん?」
「あきらに、あげる。もらって」

なかなか声が出なくて、自分でも驚くくらいか細い声でそう伝えた。でも、あきらの耳にはちゃんと届いていたようで、ぱぁっと顔を輝かせて俺に抱き付いてこようとする。最初は俺もそのまま受け止めようかと思ったけれど、ハッとここが公衆の面前であることを思い出し、慌てて止めた。

「ちょ、なんでよ。喜びのハグは!?」
「ここ、外でしょ。その、恥ずかしいから」

それに、男同士じゃ余計良くないって。と言葉を付けたし、俺はスタスタと足早に歩き出す。追いかけてくるあきらの「待ってよー!」という声を聞きながら、俺は改めて自分の頬が火照っているのを感じた。
歩幅が違うためか、あきらはなかなか追いついてこない。少し、速く歩きすぎたみたいだ。そこで、俺はふと思い出す。そういえば、まだケーキも買ってない。駅の近くに店はあっただろうか。でもまぁ、その前にすることはあるよな。
俺は足を止め、後ろを振り返る。そして、走ってくるあきらに今度は自分から手を差し出した。ずっと言いそびれていた言葉を乗せて。

「お誕生日おめでとう、あきら」

- END -





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