短編 | ナノ

「あ…、」

2人で夜道を歩いていたとき、悠太が突然足を止めて声を上げた。どうかしたのかと思って隣を見れば、悠太は空を見上げていた。

「…綺麗」

視線を逸らさぬまま、悠太は静かにそう呟いた。なんのことかと悠太の視線を辿れば、そこには大きな満月。
あ、今日って十五夜だったっけ。お月見の日?そんなふうに月のことをぼんやり考えていたら、ふとあることを思い出した。

「‥新月の願い事…」
「え?」

思い出したことをそのまま呟くと、悠太は漸く視線を月から外してこちらを見る。
悠太は聞いたことない?新月は満ちていくエネルギーに溢れてて、スタートや発展にまつわる願い事をすると叶うっていう説があるの。
前にどこかで聞いたことを話すと、悠太は感心したような反応をした。

「よく知ってるね」
「前にどっかで聞いた。…俺、次の新月のときにお願いしようかな」
「え、なにを?」

きょとんとして聞いてくる悠太の腕を掴んで引き寄せ、悠太との関係が発展しますようにって、と囁くと、悠太はカァッと顔を赤くした。そして、無言で俺を取り残して再び歩き出す。

「ちょっと、ゆーた待ってよ」

慌てて追い掛けながら、この調子だとまだまだ発展は無理かな、なんて思った。

そんな、ある日の秋の夜…







願い事

(発展したいなんて)(我が儘かもしれないけれど)

- END - 





2/2

 
←back

- ナノ -