短編 | ナノ
兄貴はそんな俺を見て、履きかけていた靴を脱いだ。そして、俺の手を引いて部屋へと戻る。
あぁ、なんでこの人は言うことを聞いてしまうんだろう。ここで突き放してくれれば、俺は甘えずに済むのに。そんな、自分勝手この上ないことを考えながらも、黙って兄貴についていく。そして、今まで押し殺していた感情の蓋を開けた。
俺は、狡い…。
「兄貴、抱きしめて」
「…え?」
「あと、昔みたいに頭撫でて」
ほっぺ叩いたの、これでチャラにしてあげる。
そう言えば、兄貴は戸惑いつつも俺の言う通りにした。この行為に、どんな意味があるかなんて兄貴は分かってない。これがただの始まりに過ぎないなんて、分かってない。
俺は、兄貴に俺だけを見てほしい。兄弟としても、それ以上としても。
「兄貴、好きだよ」
「え!?あ、えっと、ありがと」
久しぶりに好意的な言葉を向けられ、嬉しそうにしている兄貴。それは、言葉の意味を正しく理解していない証拠。
でも、今はこれでいい。これでいいんだ。
頭を撫でられる心地好い感覚の中、俺は歯車が回り出したことを確信し、ほくそ笑んだ。
- END -
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