短編 | ナノ
「……なに、これ?」

僕は目の前のケーキを見て呆然とした。
いや、正確にはケーキに乗ったチョコのプレートを見て呆然とした。
だいたいプレートには、○○ちゃん・君 お誕生日おめでとう的なことが書かれると思うんだ。でもさ、目の前にあるこのプレートは一体…なに?

「ねぇいんちょー。これは、なに?」
「なにって、プレートですよ?ちゃんと、あきら君 お誕生日おめでとうって書いてあるでしょう?」
「…僕が聞きたいのはその下に書いてある、一生を共にすることをここに誓いますって方なんだけど」

そう。このプレートにはあろうことか、何故か結婚式での誓いのような言葉が綴られていたのだ。
いんちょーは、何がしたいんだろうね。今日は僕の誕生日であって、結婚式じゃないのにね。

「誕生日に結婚って、ロマンチックじゃないですか?」
「僕、プロポーズされてないのに結婚とかやだよ」
「これがプロポーズってことじゃダメですか?」

いつもの爽やかな笑顔でそう言われ、言葉に詰まる。なんでだろ。いんちょーと一緒に居ると調子が狂っちゃう。悪態の一つでもついたらいいのに、ドキドキして言葉が出ないなんて。こんなにドキドキさせられることが悔しくて、少しだけいんちょーを睨んでみる。
でも、そんなのは効果がない。いんちょーの爽やかスマイルに、相殺されてしまうのだ。

「あきら君、お誕生日おめでとうございます。大好きですよ」
「…僕のこと、退屈させないでよね!」
「どこに出てくる敵ですか」

くすくすと笑いながら、いんちょーはツッコミを入れる。僕はぷいっとそっぽを向いて、赤くなる頬を膨らませた。

僕は、いんちょーの笑顔には勝てない。だって、あまりにも温かいから。
日だまりに居るような感覚になるくらい温かく、優しく包み込んでくれる笑顔。
その笑顔を見せてくれる君の隣にずっと居たいなんて、簡単には言ってやらないんだから。



(僕の誕生日が)(いつか記念日になりますように)

- END - 





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