短編 | ナノ
僕の目の前では今、他の人が見たら疑問を抱くであろうことが起こっている。
こーちゃんが、顔を赤くして固まっているのだ。

…先ずは、ここに至るまでの経緯でも話そうか。

今日は僕の誕生日で、こーちゃんはうちにお祝いをしに来てくれた。幸いなことに今年の誕生日は休日。1日中こーちゃんと過ごせるなんて、今年は本当に素敵な誕生日だよね!
こーちゃんは、ケーキと飲み物、それから小さな包みを持ってきていた。お誕生日おめでとう、とはにかみながらプレゼントを渡してくるこーちゃんは本当に可愛くて、食べるならこっちが食べたいななんて思ったのはここだけの話。
包みを開けると、中には時計が入っていた。うん、すっごく実用的。こーちゃんは僕に時間を守れって言いたいんだろうなっ。
そんなことを思いながらも、お礼を言って次はケーキを食べようと手を伸ばす。でも、そこで僕は何となく言ったんだ。

「これでこーちゃんが口移しでケーキ食べさせてくれれば最高の誕生日なんだけどな〜」

ただの願望だった。
叶うはずがないと分かって呟いた、ただの戯言。 それなのに、こーちゃんはその言葉をしっかりと受け止めてしまったようで、真っ赤な顔をしつつも、分かったと僕の要求を呑んでしまったのだ。

…まぁ、長くなったけど、これがここに至るまでの経緯。
こーちゃんから口移しなんて、当然今までにはなかったことで、照れ屋な彼はケーキを口に含むこともできないまま固まってしまった。
まったく、無理なんかするもんじゃないよね。

「こーちゃん、ケーキ食べよ。もういいから。僕、こーちゃんにお祝いしてもらえるだけで十分!」
「あきら…」
「ほら、食べよ!」

ねっ?と笑いかけてみせれば、こーちゃんは謝罪の言葉を口にしつつ、普通にケーキを食べることを選んだ。もちろん、僕も普通にケーキを口に運び……って、僕がそんな素直なわけないじゃんね?
こーちゃんの腕を引っ張って引き寄せ、口付けをする。そして、口内に入ったばかりのケーキを器用に舌で掬いあげてやった。そして、口元に付いたクリームを指でぐいっと拭いながら、満面の笑みを見せる。

「こーちゃん、ご・ち・そ・う・さ・ま♪」
「〜〜〜っ、おまっ」

赤かった顔を更に赤く染めて、こーちゃんは涙目状態。あ〜あ、そんな可愛い顔しちゃって。僕にそんな顔見せて、どうなったって知らないよ? 僕は自分の理性の糸が切れる音を聞いたのだった。


(誕生日ということを)(言い訳にさせて)

- END - 





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