お題 | ナノ

「…大丈夫かなぁ」

仕事を終えて学校を出ると、どんよりとした雲が空一面に広がっていた。昼間はあんなに晴れていたのに…。今日はせっかく仕事が早く終わったのに、雨で足止めをくうのは憂鬱だ。俺は少し急ぎ気味に歩きだした。…のだが、今日は運がついていないのか、学校と自宅の中間地点くらいまで来たときに雨は突然降りだした。
今朝は天気予報を見ないで学校へと来てしまったから、傘は持っていない。しかも自分が着ているのはスーツだ。雨で濡れてもいいものとは言い難い。仕方なく、俺は近くにあったコンビニの前で雨宿りをすることにした。
店内に入ることも考えたが、何も買うつもりがないから気が退けた。多少雨水が跳ねるが、それはしょうがない。まぁ、少し待ってれば止むだろう。……そう思っていたが、雨はいつまで経っても止まなかった。それどころか、明らかに強さを増している。
困ったな。これじゃ、家に帰れない。スーツが濡れることを我慢して家まで走って帰ろうとしたが、鞄の中には大事な書類や生徒から回収したプリントが入っている。それらを濡らしてしまうのは、さすがにマズイ。さて、どうしたものか…。一人考え込んでいると、少し向こうから見慣れた黒髪の少年が歩いてくるのが見えた。手に持つ袋を見たかんじ、買い物帰りのようだ。彼が前を通り過ぎようとしたところで「塚原くん」と声を掛けると、向こうも俺に気付いたようで足を止めた。

「東先生?」
「こんばんは。買い物帰り?」
「あ、はい。先生は…雨宿り、ですか?」
「うん。傘忘れちゃってね」
「そうですか…」

塚原くんの言葉を最後に会話が途切れたが、彼はその場を動こうとしない。何か言いたそうに口を開くが、そこからはなかなか言葉が出てこないようだ。
少しは言いやすくなるかと思い、「どうしたの?」と聞いてみると彼は小さく何かを呟いた。

「…て……すか?」
「え?」
「傘、入っていきますか?」

そう言って少し傘を差し出す彼の顔は俯いていてよく見えないが、頬が赤く染まっていたのはたぶん俺の見間違いじゃない…。





雨宿り中、傘を持った君と遭遇


(次に雨が降ったら)(また君の傘に入れてくれますか)

- END - 





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