お題 | ナノ

仕事が終わり、遅くに帰宅する。
慣れたはずのこの日常も、やっぱり毎日続くと疲れが出てくる。最近はテストがあったために、特に忙しくなっていた。
今日は早めに寝よう。そう思って鍵穴に鍵をさして回したときだった。違和感を感じたのだ。いつも感じる手応えがない。思い違いかもしれないと鍵をもう一度回と、カチャリという小さな音がして手応えを感じた。今閉まったということは、帰ってきたときには開いていたということ。
泥棒に入られた…?
耳を澄ませば、中からは物音がする。まだ犯人が中にいることを確信して緊張しつつ、そーっと扉を開ける。すると、目の前には人の姿が見えた。
ヤバい…!そう思ったときには、人影はもう目の前に迫っていた。そして…






「こーちゃん!おかえりなさいっ!お風呂にする?ご飯にする?それともわ・た・し?」

犯人に抱き着かれた。
姿を見なくても、誰だかなんて声で分かる。俺は男の着ているパーカーのフードを引っ張り、思いっ切り引きはがした。

「あきら!お前なんでうちにいるんだよ!どうやってうちに入ったんだよ!」
「ちょっと!質問してるのは僕でしょ!せっかくフリフリのエプロンまで付けて出迎えてあげたのに!」
「いや、意味分かんないから。あーもう…!戸締まりしたはずの家に合鍵を渡してもいないお前がいるとか、恐怖だよ!」
「はいはい。合鍵なら僕、貰うまでもなく持ってるから、ちゃちゃっと先に風呂入っちゃいなよ。疲れがとれるし癒されるよ?」

あきらは、呆れたようにそう言いながら俺の背中を押した。そんなあきらに、俺は泣きたくなる。爆弾発言した後に、よく癒されるとか言えるよな?その話を聞いたことで俺の疲れは100倍くらい増幅したよ。鍵、交換したい…。
そんなこんなで全く癒されぬ風呂に入り、上がってみればリビングの方からは何かの匂いがした。嫌な匂いではなく、食欲をそそるような匂い。あきらが料理をしたとして、こんな匂いのするものができるとは思えない。でも、もしかしたら練習でもして人並には作れるようになったのかも?なんて淡い期待を胸に、リビングの戸を開けた。
すると、それに気付いたあきらはこちらを笑顔で振り返った。

「あ、こーちゃん!今日のご飯は僕、はりきっちゃった!これを食べて疲れをとってねっ」

俺はその言葉を聞いて、あきらが手に持っているものを見つめる。その手にあったものは豪華なディナー…、なんてことはなくて、俺は思わず声を漏らす。

「…カップラーメン片手にはりきっただと…?」

あきらが用意していたのは、醤油味のカップラーメン2つだった。
…はりきったって、言ったよな?で、結果がカップラーメン?え?なに?俺カップラーメンも食えないほど貧しい生活してたの?

「ほら、た〜んとお食べ♪」
「あきら君、カップラーメンは料理とも呼べないんですけど」
「え?なに?僕の冷蔵庫一掃ラーメンが食べたかったって?しょうがないなぁ。今から作ってあげるよ!」
「…え?ちょ、やめ!あきら―――――!!!」

言葉通り、冷蔵庫の中身を片っ端から入れてラーメンを作り始めたあきら。それを止めることなど到底叶わず、その日の俺の夕食は、伸びきったカップラーメンと黒い液体と無数の具材に麺が埋もれたラーメンとなったのだった…。






疲れの原因はお前


(こーちゃん、蹲って何してんの?)(お前のせいだよ!)

- END - 





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