お題 | ナノ

普通だったはずなんだ。
本当に、いつもと何ら変わりない日常だったはずなんだ。なのに…




どうしたんだ、俺




「こーちゃーん!おはよっ」
「うわっ!あきら、いきなり飛び付いてくるなよ。危ないだろ?」
「大丈夫だよっ。もしこのまま転んでもこーちゃんが顔面強打するだけだから」
「それ、全然大丈夫じゃないよ!だいぶ重傷だよ!」

俺がこうして怒ったところで、あきらはただ笑うだけで反省なんてしない。それはいつものことで、俺も特に気にしたりはしない。

「ねぇ、こーちゃん。僕、チョコが欲しいな。買ってよ」
「嫌だよ。第一、通学路に店ないし」
「そこは君が走ればなんとかなるんじゃないかな?」
「丁重にお断りします」
「むぅ、こーちゃんのケチ」

ぷくぅと頬を膨らませて拗ねるあきら。その様子もまたいつも通りで、こうなったら機嫌をどう直そうかと頭を悩ませなければいけない。…はずだった。そう、いつもならそのはずだったんだ。
続けてあきらが言った言葉で、俺は思考を中断させた。

「もういいもん!いんちょーに頼むから」
「委員長って?」
「僕らのクラスのいんちょー!この間こーちゃんが風邪でお休みしたときに、友達になったの」
「…へぇ」
「あ、ほらあそこにいるよ。いんちょー、おはよー!」

前方に委員長とやらを見付け、タタタっと掛けていくあきら。そして先程俺にしたように飛び付く。委員長は苦笑しながらも楽しそうに会話を交わす。

…嫌だ。

それが俺の率直に思ったことだった。あきらが俺の元を離れて他の誰かのところに行くなんて、想像もしてなかった。
あきらの我が儘っぷりは相当なもので、自分以外に彼の相手をできる奴なんていない、と勝手に自惚れていたことを思い知らされた。あきらには自分以外にも拠り所となる場所がある。一緒に居てくれる人がいる…。そう考えたら、胸が締め付けられるような感じがした。胸が苦しい。辛い。あきらが離れていくなんて、嫌だ。そんな想いが自分ではどうしようもないくらいにどんどん溢れ出す。俺はこの感情の名前をまだ知らない。






(わけの分からない感情に)(俺は戸惑うしかなかった)

- END - 





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