お題 | ナノ

「ひくっ…」

先程から定期的に聞こえてくる音に、俺は後ろを振り返った。じっと見つめていると、視線の先に居る悠太は、再びその音と同時に肩を跳ねさせていた。

「悠太、しゃっくり止まんないの?」

思ったことをそのまま聞いてみれば、悠太もこちらを振り返り小さく頷いた。そして、止め方知ってる?と問い掛けてくる。そこで、俺は聞いたことのある方法を全て伝えてみた。
息を止めながらコップ一杯の飲み物を一気に飲む。下を向いた状態で飲み物を飲む。息を止められるだけ止める。しかし、どれも全く効き目はなく、悠太のしゃっくりは止まらない。

「このまま止まらないと困るな」
「うん、キスできなくなっちゃうもんね」
「…本が集中して読めない」

お兄ちゃんの素晴らしいスルースキルは、取り敢えず置いておこう。今は、悠太のしゃっくりを止めることが先決だ。そこで、俺は一番メジャーな方法を実行することにした。

「悠太、ここに座ってちょっと待ってて」

悠太を床に座らせ、俺は部屋を出た。だって、驚かすにはそういう間が必要でしょ?
少ししてから、ボーっと座ったままの悠太にそっと近付いていく。音のしないように、気配がしないように。そして、時折肩を揺らす悠太の背中に向かって、いつもは出さないような大きな声で叫んだ。

「悠太、大好きー!」

今度は驚きから肩を跳ねさせる悠太に、間髪入れずに後ろから思いっきり抱きついた。

「ね、ゆーた。しゃっくり止まったでしょ?」
「え、あ…、うん。ありがと」

照れくさそうにお礼を言った悠太は、そのまま俯いてしまった。
あー、悠太は本当に可愛いな。しゃっくりも止まったことだし、キスしちゃえ。そう思ったときだった。

ひくっ

…悠太のしゃっくりが止まった代わりに、今度は俺がしゃっくりに悩まされることになったのだった。







後ろから抱きつき愛を叫ぶ


(次は悠太が同じ方法で治して?)(やるって分かってたら効き目ないじゃん)

- END - 





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