お題 | ナノ

「じゃあ、先に行くね」
「……うん」

歯磨きをしている俺の背中に声を掛け、悠太は先に家を出ていった。バタンという玄関の扉の閉まる音が聞こえ、本当に今日からは別々に登校するんだ…と実感する。
悠太を想い続けて、もうどれくらい経ったんだろう。随分長い間想い続けているのに、当の本人にその想いが伝わることはなかった。でも、俺はそれでもよかった。この恋が叶うなんて最初から思ってないし、いつも隣にいられるっていうだけでいいと思ってたから。でもさ、こんな結末はないんじゃない…?
一人学校への道を歩きながら、先日あったことを思い出した。

悠太に「好きです。付き合ってください!」と言った、わりと可愛いかんじの女の子。悠太はモテるから、告白なんて今までにも何回か見たことはあった。だから、俺も"あぁ、またか"くらいにしか思ってなかったんだ。でも、今回は問題が起こった。
次の日、悠太は「"彼女"ができました」といつものメンバーに報告をした。

盛り上がり、祝福をする千鶴達。
「よかったね」の一言しかでてこない俺。

あまりにも衝撃が大きすぎた。なんて現実は残酷なんだろう。悠太は、半放心状態にある俺の気持ちに気付くはずもなく、追い討ちをかけるように「今日から、彼女と一緒に帰ります」と告げた。その日から、悠太が一緒に帰ることは一度もなくなった。そして、今日からは登校も彼女とすることにしたみたい。
"悠太に彼女ができた"という認めたくない事実が、俺の心を絶え間なく締め付けてくる。毎日一緒に歩いていた道も、今は俺一人。もう、悠太は俺の隣を歩いてはくれない。
千鶴や要、春がいたって悠太がいなかったら意味がないのにね。まるで、ジグソーパズルを1ピース無くしたみたいに、ポッカリと心に穴が空いた。
学校に着けば、彼女と楽しそうに話をする悠太の姿が嫌でも目についた。優しく微笑んでいる悠太。その目は、彼女に"好きだ"って言ってるように見えた。
そんな光景を見ていたら胸が苦しくなって、俺は逃げるように屋上に掛け上がった。外に出て空を見上げれば、憎たらしいくらいに綺麗な青が一面に広がっていた。

「…悠太」

愛する人の名前を呟けば、視界が歪み、一筋の涙が頬を伝った。
悠太のことは大好き。できれば俺のものにしたい。でも、悠太はあの子を選んだ。それなら、俺は悠太の幸せを願うよ。だって、好きな人には一番幸せになってもらいたいでしょ?

だから今だけ…、
今だけ泣かせてください。





片想いでも構わない。大好き


(ただ一つの想いを胸に)

- END - 





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