お題 | ナノ
「ねー、要くん。今度の休み、どっか行かない?」
「あ、はい」
「どこ行きたい?」
「…どこでも」
さっきから、こんな短い会話をしてはお互い黙り込む、という状態を繰り返している。
原因は明らかに俺。先生は気遣って声を掛けてくれるのに、俺が素っ気ない返事をするから会話が広がらないんだ。
せっかく一緒にいるんだから、話したいしもっと近くに居たいとも思う。だけど、どうも俺は感情表現が下手で、先生に対しての感情を上手く面に出せないんだ。一人パソコンで調べ物をする先生の背中を見ながら、自分の情けなさにため息をついた。もっと素直になれたら、先生だって苦労しないだろうに…。
「…要くん、ちょっと」
「はい?」
手招きをして呼ぶ先生の元に行くと、さっきの話だけど、ここはどうかな?とパソコンの画面を指差した。どうやら、今度の休みに行く場所を探していたらしい。画面には、人気スポットであろう場所が映し出されていた。
「ここだったらあまり人目を気にせず楽しめると思うんだけど…」
「あ、えっと、いいと思います」
なんともマヌケな返事だ。もっとなんかあるだろ。自分の返答に呆れ、自嘲した。
いくら勉強したって、いくら知識があったって、大切なことは何も理解できてない。もっと言いたいことはあるはずなのに…
「…要くん」
俯く俺の頬に、先生の手が触れた。見つめてくる瞳には、情けない顔をした俺が映っていた。
…目を逸らしたくなる。
「要くん、無理しないでいいよ」
「…無理なんて、してません」
「…そう?でも、これだけは言っておくね。俺は今の要くんが好きだよ」
そう言って俺を引き寄せ、包み込むように抱きしめてくれる先生。
先生は、何でもお見通しなんだな。いつだって、俺の欲しい言葉をくれるんだ。
「…先生、大好きです」
照れ臭くて顔を見てなんて言えなかったし、緊張で声も掠れてた。だけど…、これが今の俺にできる精一杯の愛情表現。
手招きしてぎゅっとして
(いつかは笑顔で)(好きと言えたらいい)
- END -
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