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寒くなってきたな…。
仕事が終わり、外に出ると寒さが身に染みた。吐き出した息は白くなり、もう冬だなぁと感じさせる。コートのポケットに手を突っ込み、夜風に吹かれながら足早に自宅へと歩を進めた。
帰ったら直ぐ風呂にでも入って温まろう、そう考えていると、突然身体に大きな衝撃を感じた。前のめりに転びそうになるのをなんとか持ちこたえ、背中に引っ付いている者に顔を向けた。

「…お前なぁ、いきなり飛び付くなよ」
「え〜、大丈夫だよ。僕軽いし」
「そうは言っても、前ほど身長差無いし、もういい年だろ」
「あー、こーちゃん最近おっさん臭いもんね」
「違うよ!だいたい俺ら同い年だろうが」

えへへ〜、と笑って腕に巻き付いてくるこいつは、本当に30目前の大人なんだろうか?まだ大学生と言っても通るその外見と言動を見ていると、もう一回高校生からやり直せとも言いたくなる。…まぁ、言わないけど。

「で、あきらはどうしてここにいんの?」
「どうしてって、こーちゃんを迎えに来たんじゃない」
「あぁ、そう」
「…ねぇ、こーちゃんはそんな薄着で寒くないの?」
「え?ん〜、まぁ少し寒いけど平気だよ」
「この時季にコートだけなんて、君は冬をなめてるよ」
「…そういうあきら君は、今からそんな完全防寒で真冬どうすんの?」

今のあきらの恰好は、本当に完全防寒だった。マフラーにニット帽、手袋を装備し、ダウンのジャケットを羽織っている。明らかに真冬というような恰好に、本当にもっと寒くなったらどうするのだろうと疑問を抱かざるを得なくなる。

「もっと寒くなったら、こーちゃんに温めてもらうからいーの!」
「はい?なにそれ」
「しょうがないから、今は僕があっためてあげるけどねー」
「だからさ、いい加減人の話聞き…、うわっ!」

俺の声は、あきらが自分のマフラーを俺にも巻いたことで遮られた。おまけに、あきらの手袋が片方俺の手にはめられる。マフラーはだいぶ長さがあるようで、二人で巻いても首が絞まるということはないが…。

「…歩きにくいだろ」
「うわ、ひっど!せっかく人があっためてあげてるのにー!」
「手袋もいいよ。これじゃ、あきらが寒いだろ」
「ううん。こうするからいいのー」

そう言って、あきらは手袋をしていない方の俺の手を握った。さっきまで手袋をしていたためか、あきらの手は少し温かかった。

「もー、こーちゃんの手、こんなに冷たいじゃん。今度からちゃんと手袋してきなよ」
「…手袋よりこっちのがあったかいだろ」
「ふふっ、そっか」

あきらの言葉に被せるように、冷たい風が勢いよく吹いた。けれど、今はさっきのような寒さは感じない。それはきっと、この繋がれた手を中心に体温が上昇しているから。

- END - 





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