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「こーちゃん、あれ買って!」

こーちゃんと付き合って初めてのデート中、僕はたい焼きのお店を見付けてこーちゃんにねだった。そんな僕に君は「買ってって…、たまには自分で買えよ」と不服そうに言う。
そんなこと言ったって、お金持ってないんだもん。しょうがないじゃん。僕は今日もいつも通りお金なんか一円も持ってきていない。そのことをこーちゃんに告げれば、「ったく、お金くらい持ち歩けよ」とか言いながらもたい焼きを買ってくれる。

「たい焼き2つください」
「えー、こーちゃんのケチ。僕は3つくらい食べたいなー」
「3つってお前、人にお金払わせといてどこまで我が儘なんだよ…」
「僕は今成長期だから、沢山食べなきゃいけないんですー!」
「あーもう、分かったよ。…すいません、やっぱりたい焼き4つください」

注文をすると、たい焼き屋のおばさんがすぐに4つのたい焼きを紙袋に入れてくれた。そして、こーちゃんに紙袋を渡すと同時に、笑顔で「可愛い弟さんねー。小学生かしら?」と言った。こーちゃんは苦笑いしながら「いや、こいつは弟じゃなくて…」と説明をしている。


『弟』


その言葉が何度も頭の中で響いた。何度も言われたことのある言葉なのに…。
身長が極端に低い僕は、こーちゃんと歩いてると兄弟に間違われるし、小学生にも間違われる。それを今までは"しょうがない"って思ってた。でも、何でだろう。すごく胸が苦しい。 
僕はその場にいるのが嫌になって、こーちゃんを置いて走り出した。あきら!?と呼ぶこーちゃんの声を無視して、どこに向かうでもなく走り続けた。でも、僕は足が遅い。後から追い掛けてきていたこーちゃんに、すぐ捕まってしまった。肩で息をする僕に、こーちゃんは優しく問い掛けてくる。

「あきら、どうしたんだよ?」
「………」
「黙ってちゃ分からないだろ?どうしたんだ?」
「……だったの」
「え?」
「…嫌だったの。こーちゃんの弟に見られるのが。だって、僕はこーちゃんの恋人だもん」

言葉にしてみて、涙が零れそうになった。高校で思われてるように、仲のいい友達に見られるのならまだいい。むしろ「仲のいい恋人ですね」なんて言われたら、それこそ問題だ。だけど、僕は対等な立場であるはずの友達にも見られない。弟なんて、小学生なんて、的外れもいいところじゃないか…。
色々な想いが駆け巡る中、僕はぐっと涙を堪えていた。そんな僕を、こーちゃんは自分の方に引き寄せてぎゅっと抱きしめてくれた。

「…あきら、俺がお前を恋人だと思ってるだけじゃダメか?」
「…ううん、そんなことは、ない」
「だったら、誰に何と言われようが気にするな。あきらは、俺の大切な恋人だから」
「…うん」

不思議だね。
こーちゃんに抱きしめてもらって少し話をしただけで、今まで締め付けられているようだった胸の痛みが和らいだ。
僕は、何をあんなに悩んでたんだろう。他の人がどう言おうと、こーちゃんと僕が恋人であることに変わりはないのにね。"兄弟"や"友達"なんて言葉は、僕達の関係を示すには不適切な言葉だけど、他の人にはそう見えたってしょうがない。


だって、"恋人"という関係は僕とこーちゃん、二人だけの秘密だから…。

- END - 





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