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すっかり日も暮れた午後7時。
塚原家の食卓は、異様な空気に包まれていた。

「…皆の衆、準備はいいか!?」

千鶴の掛け声に、そこにいた全員が静かに頷く。要はその反応を見て、直ぐに電気を消した。

「それでは諸君!いざ、始めようではないかぁぁぁ!!」

その声を合図に、次々と鍋に入れられる食材。
そう、彼らはこれから……闇鍋を始める。
何故こんなことになったのか。それは、3日前の昼休みに遡る。







―――‥

――‥


「ねぇ、皆で闇鍋しよっ」
「は?」

放課後、5人揃っていざ帰ろうとしていたとき、それまで珍しく黙っていた千鶴が、唐突に提案をした。
そこにいた全員の視線が、千鶴に集まる。その視線は、春ただ一人を除いて呆れた様子を隠そうともしないものであった。

「おい、何でいきなり闇鍋なんだよ」
「そうだよ。闇鍋なんてあれ、お腹壊すだけだよ」
「…祐希くんは、何を入れるつもりなんですか」
「大丈夫だよ、悠太に変なもの食べさせたりしないから。あくまで、要と千鶴専用だから」
「要くんと千鶴くんが可哀想ですよ」

千鶴の一言に対し、否定的ではあるものの、まともに返したのは要のみ。他の3人はそれぞれで会話を始めてしまっている。その様子に、千鶴が黙っているはずもなく、無理矢理身体を悠太と祐希の間に捩じ込ませ、抗議をするのだった。

「もうっ、人の話聞いてよ!」
「え?千鶴は人じゃなくて、ありんこさんでしょ?」
「ゆっきー!俺は正真正銘、人間じゃー!」
「もー、俺、あり語は分かんないって」
「祐希、ありんこさんに日本語は通じないよ」
「あ、そっか」
「だから、俺はに・ん・げ・ん!」

こんな言い合いをすること10分。
結果的に千鶴がダダをこね続けたため、要の家で土曜日の夜に闇鍋をすることになったのだ。


そして、現在に至る。
グツグツと音をたてる鍋。一体、どんな材料がこの中に入っているのだろうか。知っているのは、自分で持ってきた食材だけ。全員が無言で、何が入っているのか分からない鍋を見つめている。

「…あ、あの、そろそろいいんじゃないですか?」
「そうだね。千鶴、言い出しっぺなんだから、最初に食べてよ」
「えぇ!?ゆっきーから食べればいいじゃん!!」
「どっちでもいいから、早く食えよ。始まんねぇだろ」
「「じゃあ、要(っち)からどうぞ」」
「ふざけんな。お前らから食えばいいだろ!」

この得体の知れない鍋を誰が最初に食べるか、千鶴・祐希・要が言い争っている横から、悠太の静かな声が聞こえた。

「…あ、白菜だ」
「え?悠太食べたの?」
「うん。…ダメだった?」
「いや、ダメじゃねぇけど…」
「悠太くん、勇気ありますね」
「…よーし皆の衆、ゆうたんに続け〜!」

千鶴の掛け声で悠太以外の4人が一斉に具を取り、恐る恐る口へと運んだ。そして、各々が異なる反応を見せる。

「…あ、僕はホタテと……ワ、ワカメ?が入ってました」
「あ、それ俺が入れたやつ。祐希は?何食べた?」
「んー、人参と肉」
「なぁんだ、普通すぎてつまんねーの。…うぇ、だ、誰!?鍋にリンゴとか入れてんの!」
「おい、誰かスナック菓子入れただろ!」

ギャーギャー騒がしくなる食卓。有り得ないものが入ってる鍋。
たまには皆で、こんな夕食もいいかもしれない…









とは誰も思えなかった。





(…俺、明日学校休むわ)(右に同じ)

- END - 





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