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「ゆーうーたっ」

部屋で本を読んでいたとき、後ろから祐希が伸し掛ってきた。
祐希の重みで多少前に傾いた上体を起こしながら本を閉じて振り向くと、少し口角を上げて笑っている祐希がいた。俺の前でだけ見せる笑顔。それは何度か見たことのあるもので、これを見たときには嫌な予感しかしない。

「…なに?」
「ゆーたさ、今日がなんの日か知ってる?」
「今日?ハロウィンだよね?」
「そう。だから、トリックオアトリート」

小首を傾げてそう言う祐希に、"やっぱり"と思った。たぶん祐希の狙いは、俺がお菓子をあげられなくて、悪戯を迫るってとこだろう。でも、俺だってそう簡単に悪戯なんかされてやらない。ちゃんと対策は練ってあるからね。
俺は、予め用意しておいたチョコの入った袋を出す。そして、その中の一つを祐希の掌に乗せてやった。

「はい、どーぞ」
「え、悠太お菓子持ってたの?」
「お兄ちゃんはいつでも準備万端です」
「え〜、じゃあもう1回。トリックオアトリート」
「…ズルいよ、それ」

いや、それはないだろうと呆れていると、祐希はもう一度お決まりの台詞を口にした。
あぁ、もう。分かったよ。こっちには、まだ何十個というチョコがある。1袋でいくつも入っているチョコを買っておいて正解だったというわけだ。さすがにこれ全部をあげても諦めないようなら、お兄ちゃんは無視します。

「はい。これで満足?」
「…トリックオアトリート」
「祐希。それ、これがなくなるまで言うつもり?」
「トリックオアトリート」
「はいはい」

こんなやり取りをすること数分。チョコの残りはあと5つ。
あー、これ終わったら本当に無視しようかな。そんなことを考えながら、また袋の中へと手を入れたそのときだった。突如腕を引っ張られ、祐希の元へと引き寄せられる。
突然のことに対処しきれず、引かれるがままに祐希の腕の中に閉じ込められれば、そのまま唇を塞がれた。唇がこじ開けられ、口内に舌が侵入してくると広がる甘い味。どうやら祐希は、先程あげたチョコを口に含んでいたようだ。祐希とのいつも以上に甘いキスに酔いそうになる。頭が、くらくらする…。
長いキスから解放されて呼吸を整えていると、祐希は俺の頬を包み込んでふっと目を細めて笑った。

「悠太がくれたチョコ、全部2人で味わおうね?」

祐希の言葉を聞いて、俺は初めてたくさんのチョコをあげてしまったことを後悔した。






(甘すぎるキスに)(頭がおかしくなりそうで)

- END - 





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