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珍しく部活動があって悠太より遅く帰宅すると、聞き慣れたメロディーが聴こえてきた。
また、あのCDだ…

「…最近、そのCDよく聴いてるよね」

部屋の扉を開けると同時にそう声を掛けてみた。振り返った悠太の手には、今聴いているCDのケース。昔ジャケ買いしたと言っていたそのCDは、滅多にその役割を果たしていなかったのに、最近は帰宅するとよく聴いているのだ。

「ここ最近、毎日聴いてるよね。そんなに好きだったの?」
「いや、好きになれたんだよ。前よりも」
「ふ〜ん」

そのときの悠太の顔は少し、本当に僅かだけど綻んでいて、俺は聞かなきゃよかったと思った。だって、一人の人物が頭に浮かんだんだ。

…高橋さん

僅かな時間だったけど、悠太の彼女だった人。
二人が放課後デートをした翌日、彼女にCDを貸したって言ってた。そして、それが返ってきてからなんだ。悠太がこのCDを毎日聴くようになったのは。この変化といいさっきの表情といい…。
悠太は自分でも気付いてないけど、きっと高橋さんが好きなんだろうな。それが恋愛的なものか友情的なものかは分からないけど、悠太はこのCDと同じように、高橋さんのことも前より好きになってるんだと思う。直ぐに別れた二人だったけど、きっと彼女は悠太にとって大きな影響を与えた人なんだ…
 
「…この曲って、すごく綺麗だよね」

考え事をする俺に、悠太は柔らかい表情で話し掛けてくる。流れている旋律はとても綺麗で、悠太の言ってることには共感できた。でも…、

「そうだね。でも、俺には切なくも聴こえるな」
「そう?」
「うん。切ない…」

俺の返答を聞いた後、再びメロディーに耳を傾ける悠太には、やっぱり綺麗な曲にしか聴こえないと思う。だって、切ない気持ちで聴いてる俺が感じたことだから…








(幸せそうな君には)(切なくなんて聴こえない)

- END - 





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