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悠太と恋人という関係になって初めての休日のこと。俺達は特に予定もなく、家に籠っていた。何をするでもなく床にボーッと座っている俺と、昨日買ったという小説を読むことに没頭している悠太。
朝からずっとこの調子。もう悠太が本を読み初めてから2時間は経つと思うんだけど、どうやら今回の本は少し分厚いようで、休憩することもなく本に集中。
そう、俺をほったらかしにして…。まったく、可愛い弟をずっとほっとくなんて、どんだけ本に集中してるんですか。我慢の限界がきて「ねぇ、ゆーたー」と声を掛けてみるものの、返ってくるのは「んー、後でね」という気の抜けた返事だけ。
ちょっとちょっと、いい加減祐希くんもいじけちゃいますよ?しかも、何が"後で"なのか分かんないし…。それでもめげずに声を掛けてみるけど、悠太は「後で」の一点張り。こっちを見ようとすらしない。
あー、もう知らない。悠太は俺のこと嫌いなんだ。あまりにも反応の薄い悠太に少し苛立って、俺は、もういい。悠太なんか大嫌い、なんて嘘を言って部屋を出ようとした。俺の言葉にさすがの悠太もマズイと思ったのか慌てて、ちょっ、祐希!?と言って俺の腕を掴み、引き留めてくる。そして、俺の顔を覗き込みながら、祐希、怒らないで。ごめんね、と謝罪をする悠太。謝るくらいなら、最初から俺に構ってよ、なんて子供染みたことを頬を膨らまして呟くと、悠太は視線を逸らしながら「だって…」と口ごもる。
その後、ちょっと待ってみてもなかなか"だって…"の続きを言い出さない悠太に、俺は早く続きを言うよう促した。

「悠太、"だって…"じゃ分かんない。その続きもちゃんと言って」
「だって、……る…から」
「え?何?」
「…だって、なんか緊張するから。祐希とこうやって二人きりでいるの、なんか、変に意識しちゃうから…」

最後の方がフェードアウトしていく悠太の言葉。俯きながら顔を赤く染める悠太が本当に可愛くて、さっきまでの苛立ちなんか吹っ飛んだ。付き合っているとは言っても、いつもは千鶴達が一緒にいるし、帰ってきても宿題やったりご飯食べたりっていう日常的なことをするだけで、特に変わったことはなかった。
でも、休日はそうはいかない。同じ部屋なんだから、どちらかが部屋を出ていかない限り1日中二人きり。今までとは違って付き合っているという事実があるから、悠太はなんか気まずくなったってことか…。
あー、もう。なんて可愛いんでしょう、うちのお兄ちゃんは。そんなの気にせず、いつも通りにしてればいいのにね。

「悠太、そんなに俺のこと好きなんだ」
「…うん。好き、だよ」
「……襲っていいですか?」
「はい?何言ってんの?」
「いや、だってそんな可愛い顔と声で好きとか言われちゃったら、檻に閉じ込めてた狼さんが出てきちゃうじゃないですか」
「閉じ込めといてください」
「えー、じゃあこれだけはさせてね」

そう言って深い口付けをすれば、悠太は少し涙目になって、いきなり何するの…っ、と抗議をしてくる。
……ごめんなさい、お兄ちゃん。たった今、理性という名の檻は一気に崩壊しました。

「…悠太が誘ったんだからね」

低い声で呟いて、俺は今までにないくらい甘いキスをした…。




(大好きな貴方の前では)(俺も狼になるのです)


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