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学校からの帰宅後、悠太はいつものように宿題という名の勉強を始めた。俺にとって、その時間は本当につまらない時間。そりゃあ、漫画を読んだりゲームをやったりして時間を潰したりもできるけど、悠太の意識が長時間俺以外のものに向けられるというのは、ちょっと耐えられない。だからといって悠太の背中にのし掛かり「退屈ー」と言っても、「今勉強中だからあとでね」とあしらわれた。でも、俺もそんなんで諦めたりはしない。だって、せっかくの二人だけの時間を勉強に使うなんて絶対おかしいもん。

「ゆーたぁ」
「今度はなぁに?」
「…退屈」
「じゃあ、祐希も宿題やったら?」
「いい。要に見せてもらうから」
「要、見せてくれるんだ?」
「ううん。断られるから、こっそり借りるの」
「…それ、見せてもらうって言わないよね」
「あー、うん。そうかもね」
「まぁ、どっちでもいいや。取り敢えず、俺は今勉強してるから邪魔しないでね」

そう言ってまた机に向かう悠太。
まったく、邪魔とは何ですか!可愛い弟がこんなにも構ってほしがってるっていうのに、お兄ちゃんは教科書とにらめっことか、酷くない?学校ではだいたい千鶴達も一緒にいるから二人きりになんてなれないし、ましてやキスなんかはこうやって自分達の部屋にいるときにしかできない。悠太はキスとかしたくないのかなぁ。俺は、まだしたことのない悠太とのキスを夢見ることだってありますよ。キスしたいなぁって思ってますよ。だって、俺は悠太のこと大好きだもん。ここまで考えて、俺はふと思った。悠太は本当に俺のこと好きなの…?
思いきって告白をしたのは俺だった。俺も好きだよって言ってもらえたときの嬉しさは、今でもちゃんと覚えてる。
…でも、あの「好き」は兄弟愛の方の"好き"だったんじゃないかな?俺の言ってることがちゃんと伝わってなかったのなら、考えられることだよね。勝手に勘違いして、一人で舞い上がってたのかも…。考えれば考えるほど不安は膨らんでいく。
悠太に触れれば少しは安心できるかなと思い、悠太に後ろから抱きついてみた。悠太は突然のことに少しビクッとしてから、祐希?と振り向いた。悠太に触れても不安を取り除ききれないと知った俺は、黙って悠太から離れ、さっきいた場所に座り直す。悠太は椅子から立ち上がり、俺の顔を覗き込んで少し心配そうな顔をした。

「…祐希、どうしたの?」
「何が?」
「なんか、泣きそうな顔してる」
「…そんなことないよ」
「祐希、自分の表情見えないでしょ。そんなことあるんだよ」
「見えないけど、泣きそうじゃないもん」

絶対に理由を言わない俺を悠太はじっと見つめ、そして引き寄せた。悠太の胸に収まる自分。突然の行動に困惑していると、今度は唇を塞がれた。俺がずっとしたかったキス。まさか、悠太の方からしてくれるとは…。キスをしてきた当の本人は唇が離れた後、目線を逸らして真っ赤な顔をしている。
これって、あのときの"好き"が兄弟愛じゃなかったっていう証明になるよね?さっきまでの不安は、嘘のように消えたみたい。

「…悠太、俺、もう泣きそうじゃないよね?」
「うん。なんか嬉しそう」
「そっか。…あのさ、悠太は俺のこと恋愛対象として好きなんだよね?」

もうさっきのキスで分かったけど、聞かずにはいられなかった。悠太の口から答えを聞きたい。悠太はじっと答えを待つ俺の頭を撫で、優しく微笑みながら「当たり前でしょ」と言ってくれた。
悠太のその優しい笑顔は俺にしか見せないものだってことに、俺はまだこのとき気付いていなかった。

- END - 





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