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「…あ、あの、先生」

塚原要、17歳。只今、非常にテンパってます。
久々にうちに来ないかという誘いを受けて、先生の家に来た。そして、いつものようにソファーに座ってコーヒーをもらった。ここまではいつも通り。そう、ここまでは。違ったのはその次だ。
いつもなら俺の隣に座って、一緒にコーヒーを飲んで、他愛もない話をするはずなのに、先生は隣に座るなり俺の腕を引っ張って抱きしめる。突然のことに焦って、咄嗟に離れようとするがより強く抱きしめられてしまい、また先生の腕の中に収められてしまった。

「…あのっ、先生?どうしたんですか?」
「何が?」
「いや、何がって…、いきなりだ、抱きしめたりするから…」
「…要くんはさ、俺のこと本当に好き?」

耳元で囁かれた言葉は、あまりにも突拍子もないことで、何故そんなことを今更聞くのかが分からなかった。好きじゃなかったら、付き合うわけないじゃないか。学校にバレたらただ事では済まないというリスクまで背負って付き合う理由は、お互いを好きだから。お互い一緒に居たいと望んだから。そのはずなのに、何で今更好きかどうかを聞くんだろう?先生の考えていることが分からないまま、そんなの当たり前でしょと答えれば、じゃあちゃんと好きって言って、と返されてしまった。
ああ、分からない。

「先生、本当にどうしたんですか?」
「……あきらに言われたんだ。"相手から好きって言ってくれないのは、こーちゃんのことをそこまで好きじゃないからじゃない?"って」

あきらさんといえば、たしか先生の幼馴染みだ。何であきらさんが先生と俺との関係のことを知っているかという疑問は、もうこの際どうでもいい。
今俺が言わなきゃいけないことは、ただ一つみたいだから。

「先生…、先生は、言葉がなきゃ信じてくれませんか?」
「え?」
「俺は、大事なのは言葉より態度とか気持ちだと思う。その、す、好きとか、そういう気持ちを伝えるの、苦手なんだよ…」
「…要くん」
「俺は態度も悪いかもしれないけど、その、なんというか、恥ずかしいだけ、だから…」

尻窄みしてしまった言葉は、先生の耳にちゃんと届いたか分からないけど、先生は再びぎゅうっと抱きしめてくれた。それが心地好くて、無意識のうちに先生の背中に手を回す。気持ちを言葉にしないことで先生を不安にさせてたなんて、今まで知らなかった。気付かなかった。俺、今度からはもっと気持ちを言葉にするよ。態度も改めるよ。でも、最初から全部は無理だから。
だから今は、一番大切なことだけを伝えるよ…

「東先生、大好き、です」



(初めて言葉にできた)(貴方への気持ち)

- END - 





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