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冷たい風が吹きすさぶ中、俺は全速力で走っていた。肺に冷たい空気が入り込み、時折息苦しく感じるが今はそんなの気にしてる場合じゃない。

約10分前、一本の電話が入った。
ディスプレイに表示されていたのは大好きな人の名前で、柄にもなく胸をときめかせて電話に出た。しかし、聞こえてきたのは予想に反した無邪気な声。
その声の主は俺の話など聞かず、ただ「こーちゃんが大変なの!急いで来て!とにかく急いでね!それじゃっ」とだけ告げて電話を切った。
怪我でもしたのかとか、病気にでもかかったのかとか、嫌な予想ばかりをしつつも自然と足は玄関に向かっていた。場所を聞いてないことに気付いたけど、たぶん先生の家だと思う。
とにかく急いで先生の家に行き、半ば叩くようにチャイムを押した。すると、「は〜い」という間延びした声が中から聞こえ、電話をしてきた人…、あきらさんが姿を現した。

「あ、あの、先生は?」
「とりあえず中入って。こーちゃんはリビングにいるから」

その言葉を遮るように「おじゃまします」と早口で言い、上がり込む。リビングに入ると、ソファーにもたれ掛かるようにして座る先生が目に入った。顔が赤くて怠そうで、そんなに具合が悪いのかと慌てて駆け寄る。

「先生!大丈夫ですか!?」
「ん〜?…あ、あきら。ろこ行ってたんらよ〜」
「…は?」
「も〜、こーちゃん。僕はこっち!自分の恋人まで分かんないの?」

要くんかわいそー、と続けるあきらさんは、先生に持って来た毛布をばさっと被せてから俺に向き直った。

「あの、大変だったんじゃないんですか?」
「大変だったよ!酔ったこーちゃんの相手するのは。君、こーちゃんの恋人なんだってね。なんかベラベラのろけ話してたよ」
「…はぁ〜」

盛大なため息をついた。大変だというから急いで来たのに、酔ってただけって…。心配して損したじゃねぇか。

「…俺、帰ります」
「え〜、ダメだよ。君に任せるつもりで呼んだんだから」
「酔っ払いの面倒なんてみきれませんよ」
「らいじょぶ。酔っれないから」
「呂律回ってませんけど?」
「あ、今日は要くんお泊りしよー」
「ちょ、離して下さいよ。帰りますから!」
「まぁいいじゃない。泊まってあげなよ。じゃ、僕帰るから!バイバイ!」
「えっ、逃げないでなんとかして下さいよ!!」
「要くん、夜は騒いじゃらめらよー」
「…頭いてぇ」

理想はとっくに崩れてた。でも今日は信頼だとか、なんか色々崩れたような気がする。
あぁ、本当にどうしようもねぇ…。

- END - 





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