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二人きりで過ごすゆったりした休日。二人で並んでコーヒーを飲んでいるとき、俺は帰りがけに見た物を思い出し、隣に座る生徒に質問を投げ掛けた。

「そういえばさ、要くんって小さい子ども好きなの?」
「…はい?」

唐突な質問に彼はきょとんとしている。あ、いきなり過ぎたかな。
彼ら二年生は今、職場体験を数週間後に控えており、その体験先希望調査表の提出期限が今日までだったのである。そして、教員室で机に置いてあった彼の希望調査表を偶然見たところ、"ひだまり幼稚園"と書いてあったから疑問に思ったのだ。彼は子どもが好きだったのか、と。
一通り理由を説明してから先程の質問を繰り返すと、要くんは苦笑しながら希望理由を教えてくれた。

「えっと、あれは悠太達と話してたときに皆でそこにしようってことになったので。別に子どもが好きって訳では…」
「へぇ、そうだったんだ。…あのね、俺も高校生のとき、職場体験は幼稚園に行ったんだよ」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。希望理由は要くんとあんまり変わんなくて、"親友が幼稚園がいいって言ったから"なんて適当なものだったんだ」

要くんの興味深そうな視線を浴びながら、職場体験での思い出話を始めた。
自分が思ってた以上に大変だったことや、園児への対応で困ったことなどを話して聞かせた。

「…幼稚園教諭の仕事って、かなり大変そうですね」
「うん、そうだね。……あ、そうそう。あとね、大変だったと言えば俺、一人の園児に嫌われちゃってたんだよね」
「え、先生何かしたんですか?」
「ううん、違うよ。その子、担任の先生が好きだったみたいで、敵視されちゃってたみたいなんだ」
「………」
「名前は覚えてないけど、その子が魔女と戦ってお姫様を守ってあげるんだって言ってたのは、妙にはっきり覚えてるんだよね。あの子、今どうしてるんだろう?お姫様となる彼女でもつくって、守ってあげてるのかな?」

思わず微笑みながら話している俺の隣で、要くんは黙って俯いていた。それに気付いてどうしたの?と問うと、何故か赤くなった顔を上げて口を開いた。

「…その子、今は守られてる側だと思います。あと…、その子は先生のこと嫌いだったんじゃなくて、憧れてたんだと思います」
「え?」
「…っ、き、今日はもう帰ります!お邪魔しました!」
「えっ、ちょ、要くん!?」

要くんは横に置いてあった鞄を引っ掴むと、真っ赤な顔をしてあっという間に帰ってしまった。部屋に残された俺は訳が分からず、取り敢えずさっきまでの会話を思い出してみる。一人の園児の話をした辺りから様子が変だったんだよなぁ。その子について思い出そうと努めると、微かに蘇る記憶が一つあった。
ん?ちょっと待て。もしかして、あの園児って…。

「…要くん!?」

綺麗なくらい黒い髪に、気の強い性格。確かその子の近くに双子の兄弟がいて、あきらのペースについていけるなんて凄いって思ったんだ。あの双子がもし悠太くんと祐希くんだとしたら…。うん、きっと間違いない。あの時の園児は要くんだ。だからあんな反応を…。うわぁー、どうしよう。運命とか思ってもいいのかな?
思わぬ偶然に自然と笑みをこぼしながら、運命的な再会に幸せを感じているのは、きっと俺一人じゃないと思った。



(二人は結ばれるべくして)(出逢ったのだと信じたい)

- END - 





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