log | ナノ

只今20:50。
冬の寒空の中、俺はさっきから同じ場所で立ち止まっている。その場所とは、東先生の家の前。手には小さなチョコの入った箱が一つ。昨日、かなりの勇気を出して買ったものだ。しかし、渡すのにはもっと勇気が必要だった。学校内では渡せるはずもなく、帰り道に渡そうと試みたが失敗。渡すことのできぬまま先生は帰宅。俺は一度は諦めて家に帰ったものの、やっぱり諦めきれず、現在に至るのだ。

『ハァ。どうすんだよ、俺』

何もできないまま、時間だけが過ぎていく。そろそろ身体も限界だ。今は2月の夜。そんなときに外に30分以上もいれば、マフラーなどあまり役に立たない。
やっぱり、諦めて帰るか。そう思って帰ろうとした矢先、携帯から着信音が流れた。ディスプレイを確認すれば、'東 晃一'の文字。
…タイミングがいいんだか悪いんだか。

「…もしもし」
『もしもし、要くん?』
「はい」
『ごめんね、こんな夜に。ちょっと、声が聞きたくなっちゃってさ』
「………」
『要くん?』
「……先、生」
『ん?どうしたの?』
「…あ、の。今から、出てきてください」
『えっ?どうし…』

俺は、先生の言葉を最後まで聞かずに電話を切った。だって、今から直接話せるだろ?
中から聞こえてくるドタバタという音。そして間もなく、勢いよく玄関の扉が開かれた。

「あ、要くん!いつからいたの!?」
「…少し前からです」
「少しじゃないでしょ?手がこんなに冷たいじゃん」
「…あの、先生、これ」
「え?」

俺は、先生に掴まれてない方の手で、持っていた箱を渡した。

「バレンタイン、だから。その、手作りとかじゃないですけど…」
「要くん…。ありがとう」

そう言って笑った先生の顔を見たら、今までの寒さが全部吹っ飛んだ…。

- END - 





4/5

 
←back

- ナノ -