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「寒い…」
仕事を終えて校舎を出ると、ひんやりとした空気に肌寒さを感じた。最近はすっかり秋らしくなって、風が冷たい。早く帰って温かい風呂にでも入ろうと足早に歩き始めると、校門前に人影が見えた。
「…要くん?」
シルエットから予想した人物の名を呼べば、相手は驚いたのか肩を跳ねさせ、ばっとこちらを向く。そして、ゆっくり近付いてきてやっと確認できた姿は、予想通りの人物だった。
「要くん、こんな時間までどうしたの?今日は遅くなるって俺言ってなかったっけ?」
「…いや、あの、どうしても一緒に帰りたくて…」
「えっ?」
「き、今日は先生、誕生日だって聞いたから…。お誕生日、おめでとうございます」
顔を俯かせて、プレゼントらしき小さな紙袋を差し出す要くん。
えっ、嘘…。うわ、どうしよう。こんなお祝いしてくれるなんて思ってなかった。しかも、わざわざ待っててくれたなんて…!
嬉しさを隠しきれていないであろうことなど気にせず、ありがとう、と言ってプレゼントを受け取る。照れているのか、要くんはまだ俯いたまま。そんな彼に愛しさを感じつつも、風邪を引かせてはいけないと思い、帰ろうかと要くんの手を引いた。
しかし、彼は歩こうとはせず、黙ってその場に立ち尽くしていた。
「…要くん?」
「…………」
「どうしたの?もしかして、具合でも悪い?」
返事すらしてくれないことに心配になり、顔を覗き込もうとしたそのとき、繋いだままの手を思いっ切り引っ張られた。突然のことに驚いていると、唇が重ねられ思考停止。かるく触れただけだったが、俺の頭が真っ白になるには十分過ぎた。
「…東先生、大好きです」
そう言って、彼ははにかむように笑った。いつも見ないような表情に俺は余裕がなくなる。ここが外だなんて気にもせず、要くんを抱きしめた。
「ありがとう、要くん。俺も、大好きだよ」
静寂に包まれた二人きりの校庭で、俺達は2度目のキスを交わした。
(彼からの言葉が)(一番のプレゼント)
- END -
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