A requiem to give to you
- 過去より今を、今より未来を(7/7) -



「……と、言うと?」



問われた言葉に、レジウィーダは一つ息を吐くと意を決したように口を開いた。



「あたしの父はね、医者であると共に………龍脈に関する研究者なんだよ」



そう言ってヒースの前に己の手をかざす。



「あたしが自分の能力について何か知っているかって、前にジェイドが聞いてただろ? この間の問いに更に補足を入れるとね。この力自体が、元々人為的に与えられたモノなんだ」



まぁ、発現したのは異世界に初めて渡った時なんだけど。



「成程な。つまり、僕が事故で生死を彷徨っている間に、君の父親が治療の際にその龍脈のエネルギーを用いたって事か」

「そう言う事になるね」



馬鹿げた話だ。だけどその身に起こっている事実は確かに現実で、それによって受けた被害も確かにヒース自身を傷つけていた。その想いをレジウィーダではとても理解してあげる事は出来なかったが、原因が身内となれば、罪悪感を感じないわけがなかった。



「だから、ごめん。間接的とは言え、君の大切な時間を、過去を……めちゃくちゃにさせてしまった。どんな目に遭っていたかも知らずに、それに気付けなくて……ごめんね」



頭を下げて謝るレジウィーダにヒースの表情は見えない。謝って済む事でもないことはわかっている。しかし、知ってしまったからには言わずにはいられなかった。

いつの間にか降ろされていたトゥナロが口を挟む事なくヒースとレジウィーダを交互に見遣り、そして大きく欠伸をした。

それと同時にレジウィーダの頭上から笑い声が聞こえてきた。



「何言ってんだか」

「…………?」



思わず顔を上げると、そこには怒りも、憎しみもなく───ちょっと無愛想で、だけど本当は感情的で、優しい。いつも通りの幼馴染みが立っていた。



「やっぱり、君に謝られる意味がわからない」

「だって、」

「だっても、でももないだろ。君も、君の父親にも……感謝こそしても、何で怒らなきゃならないんだよ」



確かにさ、とヒースは苦笑する。



「人と違うって事で嫌な目には遭ってきたよ。それで陸也にも散々迷惑かけたし……だけど、そもそもの話。君の父親がそうしてくれなかったら、僕は今こうしてここには居られなかった可能性が高かったんだ。仮に生きていたとしても、君達と異世界に渡って、こんな風に一緒に旅だとか、戦いなんて出来なかったと思う。ルーク達とだって、出会えなかった」

「ヒース………」

「だから、君の父親には本当に感謝しているんだ。勿論、君にもね」



そう言われてレジウィーダは首を傾げた。



「あたしも?」

「そうだよ。君も、皆川…………涙子も、どんな僕でも変わらずに遊んでくれた。陸也だって、何かあれば必ず心配して、怒ってくれた。それがどんなに支えになっていた事か。だからさ、謝らないでよ」

「……それでも、過去は変わらないんだよ?」



レジウィーダは苦しげに拳を握る。しかしヒースの表情は変わらなかった。



「それでもだよ。辛い事も、良い事も全て引っくるめて今があるんだ。この先の未来の事はわからない。だけど、僕は今こうして生きている時間を大切にしたいんだよ」

「今…………」

「君はどうなんだ? 宙」



急にそう問われ、言葉に詰まる。



「依存とかじゃないんだけどさ。何だかんだで僕は、四人でいる時間が好きなんだよ。確かに離れ離れになる事もあるけど、生きてさえいればどこにいたって会う事は出来る。この世界でもそうだったように。そうやって遊びたい時に集まって、馬鹿やって、時に喧嘩しながらも………これからもそうして皆との時間を過ごしたいんだ」

「あたしは……」



どうしたい、だなんて。答えは昔から変わらない……なのに、言葉が一切として出てこない。嘘の言葉すらも。

そんなレジウィーダの心情を見透かしているのだろうか。ヒースは答えを急かす事なく自身の言葉を続けた。



「最近、何を悩んでいるのか知らないけどさ。───僕達を悲しませるような事はするなよ?」



そう言ったヒースの顔は、先程シルフ達に見せたようなどこか悪い笑みだった。

それにすらまともに返事を返せないでいると、街の遥か上空の方から大きな音が響いてきた。



「あれは……?」



ヒースが空を見上げるのに倣うと、そこには───巨大な浮遊機関がこちらに向かって飛んで来ている事に気が付いた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







巨大な浮遊機関───アルビオールと呼ばれたそれに乗って現れたのはルーク達だった。

街の広場に降り立ち、それから仲間達と降りてきたルークがマクガヴァン親子に説明し、残った住人達を避難するまではとても早かった。

住人全員をアルビオールに乗せ、最後にヒースとトゥナロ、レジウィーダも乗り込んだのを確認すると、操縦士であるノエルの掛け声と共にアルビオールはセントビナーの地から離れ、空へと飛び立った。



それからセントビナーがディバイディングラインを超えたのは、僅か十数分後の事だった。











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