A requiem to give to you- 過去より今を、今より未来を(5/7) -
「確かに、今まで僕はたくさん理不尽とも言える出来事には遭ってきた。全てを投げ出したくなるくらい、辛い時だってあったよ───でも、それでも僕は自分の世界が大切だって思う」
『辛いのに?』
シルフの言葉にヒースはニッと悪戯に笑った。
「これでも結構負けず嫌いなんだよね。やられっ放しってのは………腹の虫が収まらなくって堪らない。だから、僕を馬鹿にした奴らを見返したいんだ。アイツらの上に立って、自分達のしてきた事を後悔させてやりたいんだよね」
以前タリスに言った「西高の帝王になる」はあながち間違いではない。一見ふざけているように聞こえるが、調子付いてる奴らに制裁を加える事を一度としてヒースは諦めた事はなかった。
「勿論、同じ目に遭わせるとかそんな事はしないけどさ。でも底辺だと馬鹿にした奴らをギャフンと言わせるのは………
すっごく楽しいだろうからな」
きっと今の自分はとても悪い顔をしているのをヒースはわかっていた。目の前にいるシルフ達は勿論、側にいるレジウィーダ達でさえ何も言えずにポカンとしている。
そんな周りにヒースは一つ息を吐くと肩を竦めた。
「それに、憎たらしい事ばっか言うけど大切な家族も、仲の良い友人もいるからね。それを放ってまでここに留まろうとは思えない───君たちには悪いけどね」
そこまで言うとヒースは改めてシルフとノームを見た。視線を受けた二人は暫く呆然とヒースを見ていたが、やがて二人は顔を見合わせると盛大に笑った。
『あっはっはっはっ! 何それすごく面白そうなんだけど♪』
『俺それ知ってる。ゲコクジョウってやつだー!』
どうやらヒースの決意はお気に召してもらえたらしい。一頻り笑いきると、二人は仕方がないと肩を竦めた。
『残ってもらえないのは残念だけど、ここまで言われちゃったらねー?』
『でも折角だから、手助けはしてやるよ』
ノームがそう言うと、二人はヒースの隣に来て両手を掲げた。するとそれぞれの両手から光が集まり、それはヒースの頭上に来ると弾けた。
「これが、祝福……」
「何つー音素の濃度だよ」
そんなレジウィーダとトゥナロの声を聞きながらも光を浴びたヒースはシルフ達に「良いのか?」と問いかけた。
「君たちの願いを叶えられないのに」
『何言ってるんだよ』
その言葉はシルフによって否定された。
『そもそも、ローレライが君達をこの世界に喚んだ理由を忘れたの?』
「あ…………」
『俺たちだって世界が滅ぶのは嫌だからなー』
『助けてくれるんなら、手を貸すのは当然だろ?』
ま、ぼくが力を貸すのは君だからってのもあるけど。
そうシルフが言葉を付け加えると、ノームもうんうんと頷く。
『最善の道に行けることを願うよ』
『絶対に後悔するような結末だけはするなよー』
そんな二人にヒースは力強く頷いた。
「約束するよ………必ず」
それにシルフとノームは満足そうに笑うと、一人は風に乗り、また一人は静かに大地に溶けるようにして消えていった。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
シルフとノームが消えて暫く。その場に残された三人の間には沈黙が流れた。
誰も何も言い出せないこの空気感にヒースはどこから何を説明したら良いのかと考えあぐねていると、ふとレジウィーダが口を開いた。
「ヒースちゃんってさ………地球生まれの地球育ちだよね?」
「その筈だけど」
いつもの揶揄いもふざけた雰囲気もない質問にヒースは頷く。それにレジウィーダは一生懸命に言葉を選んでいるのか、少し言い辛そうに続けた。
「あの、さ。さっきシルフ達が言っていた事も気になるけど……それ以前からずっと気になってたから聞くけどさ。ヒースちゃんって確か、事故で体が不自由だったんだよね?」
「そうだね。前にも言ったけど、能力に目覚めてからはそれが一切なくなったよ」
そう、それはまるで今まで我慢していたものが解かれたかのように、せき止められていた岩が退かされたかのような、そんな感覚だった。
「もしかしてその不自由さって、能力が原因だったんじゃないかって思ったんだけど……事故の時に何かあった?」
「何かあった……ってどう言うことだ?」
質問の意味がわからずに問い返す。それから直ぐに事故当時の事を振り返ってみるが………怪我をして、病院に運ばれて治療を受けた事しか思い浮かばなかった。
「事故に遭った直後は意識がなかったからな。正直わからないけど、普通に病院に運ばれて治療を受けたんだと思うよ」
「事故の内容は一応聞いたことはあるけど………リハビリをしたとは言え、そんな直ぐに日常生活に戻れるくらいに回復ってするものなの?」
「レジウィーダ?」
質問攻めにあうのはある程度予想していたが、ヒースが考えていた内容と違う方向性の問いに思わずレジウィーダの名を呼ぶ。
しかしレジウィーダはヒースに詰め寄ることをやめなかった。その目は、何かを確信しているような……けれどどこか信じたくないと言う想いを感じた。
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