A requiem to give to you
- 過去より今を、今より未来を(3/7) -



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セントビナーのシンボルとも言える大木、ソイルの樹。大昔に荒れ果てたこの地に奇跡を齎し、草花で一杯にしたとされる逸話を持つこの樹の下にヒース、そしてトゥナロはいた。



「これ、いつ終わるんだ?」

「オレに聞くな」



二人(一人と一匹?)の目の前ではある意味では人知を超えた光景が広がっていた。それは……───



『だーかーらー! ぼくが最初に見つけたんだから、ぼくが先だよ!』

『いちいち細かい奴だなぁ。俺のお陰でこの街があんまり揺れずに済んでいるんだぞー。ここは俺に譲れよー』



元気で活発な声を放つのは、紫色の蝶のような羽、そしてそれと同じ色の髪に青いリボンをつけた少女の姿をした存在。それに対峙するようにのんびりとした声を放つのは、赤い大きなリボンをつけた大きなモグラのような……何か。

前者は声だけならば聞き覚えがある。嘗て自身が能力を開花させる為の切っ掛けを作ってくれたと言っても過言ではない存在でもあるシルフだ。ヒース自身も姿を見たのは初めてで、女の子の姿をしていた事に驚きを隠せなかったが、それ以上に後者の方がもっと驚いた。

後者は恐らく第二音素集合体と言われるノームだろう。先程、ふと二人の前に風と共に現れたシルフと再会を喜び話をしていると、突然地面を割って現れたノーム。どうやら彼(?)は沈み続けるセントビナーを少しでも遅らせる為に支えてくれているらしい。

そんなノームは他の音素集合体と同じくヒースに祝福とやらを授けに来たらしいのだが、そこでシルフが「ぼくが先だ」と二人の間に入ってきたことにより、言い合いが始まってしまった。



『ただでさえセルシウスやウンディーネに抜け駆けされてるんだ! これ以上はぼくが許さないよ!』

『別に誰が先でも良いけどさぁ。俺だって暇じゃないんだよー。お前はいつだって好きに飛び回ってるから好きなタイミングでいけるだろー?』

『だーめ! いくら仲良しな君でもこれだけは譲れないよ。直ぐに終わるんだから後にして!』



そんな感じでどちらも譲らずに言い合う事はや数分。間に入ることも出来ずにヒースは困ったように頭をかいて樹の根っこに座って様子を見守るしかなかった。

同じく巻き込まれないようにヒースの隣にきていたトゥナロが言った。



「お前、随分とモテモテじゃねーか。どうなってるんだ?」

「それは僕が聞きたい」



そもそも、音素集合体が一人間であるヒースの目の前に姿を現す事だって本当ならあり得ないのだ。それが次から次へとこうして自らやってきて祝福と言って力を分け与えるだなんて、チートも良い所だろう。



「正直、今僕自身も何が起こっているのかはわからない。……けど、今のところ特にデメリットはなさそうだから、もらえる物はもらっておこうと思ってそのままにはしている」

「お前……そう言う所は本当に変わらないな」



呆れたような、けれどどこか懐かしがるようなトゥナロの口振りにヒースは思わず目の前の光景から視線を隣へと移した。



「そう言えばお前って……陸也の記憶があるんだっけな」

「一部、だけどな。まぁ、それは前にも言った通りだから今は良いだろ───それよりも、お前。記憶にあるよりも随分と変わったな」

「つい今し方変わらないと言った直後にそれか」



思わず突っ込んでしまったが、トゥナロは「そうじゃない」と言って続ける。



「能力が開花したからと言うのもあるんだろうが、お前はこの世界に来てから他の三人と比べて一番身体的に変化が出ていると思ったんだよ」

「それは……」



それはヒース自身も感じていた事だ。能力に目覚める前は体は鉛のように重たく、視力だって悪かった。

体に関しては、小さい頃の事故による後遺症だと思っていた。



『───聖、危ない!!!!』



工事中の建物からの落下物は、まだ小学生も低学年ほどの子供にはかなり重い傷を負わせた。事故の直前、その日たまたま会った年上の知り合いのそんな叫びにも、小さかったヒースにはどうする事も出来ず、ただただ大きな鉄骨をその身に受けるしかなかった。



下手をしたら死んでいただろう。そうでなくとも、体のどこかしらはなくなっていてもおかしくなかったのかも知れない。

しかし、直ぐに運ばれた病院に居合わせた医師により奇跡とも言える復活を遂げた。傷跡も殆ど残らず、検査では骨も神経も問題ないと言われていた。

だけど何故か体は鉛のように動かなかった。リハビリを重ね普通に動けるようにはなったが、それでも敏捷性はなく、走る事すら苦痛だった。

それがこの世界に来て、力に目覚めてからはどうだろう。まるでそんなモノなどなかったかのように体は軽く、眼鏡がなくともどこまでも遠くを見れるようになった。

それは素直に嬉しい事で、この事を伝え、今の身体能力を目の当たりにした三人も安堵と喜びの表情を浮かべていた。
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