A requiem to give to you
- 潮のせせらぎと友愛の歌(8/8) -



ふう、と一つ息を吐くとこう言った。



「俺さ、マルクトの人間なんだ」

「へ? ガイってそうなの?」



全員が驚く中、アニスが代表してそう問うと、ガイは「ああ」と頷いた。



「俺は、ホド生まれなんだ。……で、俺が五歳の誕生日にさ、屋敷に親戚や親交のある人達が集まったんだ。それで、預言士が俺の預言を詠もうとした時…………戦争が始まった」

「ホド戦争……ね」



ティアが呟き、周りが全てを察したように息を飲み込んだ……ルーク以外は。

ルークは戸惑ったようにどう言う事かを訊ねると、ナタリアが言い辛そうに教えてくれた。


「ホド戦争が起きたのは今からおよそ十六年前です。そのホドを攻めたのは………ファブレ公爵ですわ」

「なっ……そんな!」



驚愕を隠せないルークにガイは苦笑しながら「そう言う事だよ」と話を引き継いだ。



「俺の家族は公爵に殺された。家族だけじゃねぇ……使用人も親戚も、友人達も───あいつは俺の大事なものを笑いながら踏み躙ったんだ」



だから俺は、公爵に同じ思いを味わわせるつもりだった。

そう語ったガイの表情は、今まで見たことがないくらい悔しさと、悲しみを帯びていた。

そんな彼に今まで黙っていたジェイドが口を開いた。



「では───貴方が公爵家に入り込んだのは、復讐の為ですか? ガルディオス伯爵が子息、ガイラルディア・ガラン」

「……ガルディオス。やっぱりか」

「レジウィーダ?」



ジェイドから出た聞き覚えのない名前に皆が訝しむ中、レジウィーダがどこか納得したように呟くのが唯一聞こえたタリスがそちらを見ると、それに気が付いた彼女は「なんでもないよ」と首を振って返してきた。

ガイはジェイドの言葉に一瞬だけ目を瞬いた後、笑った。



「はは、ご存じだったってわけか」

「気になったので少々調べさせてもらいました。貴方の剣術は、ホド独特の盾を持たない剣術───アルバート流でしたからね」



ま、正確にはその派生ですが。そう補足を入れていたが、専門ではないのに剣の型だけでそこまで調べ上げられる彼の情報収集能力はやはり恐れ慄くレベルだ。

ルークは息を呑み、「なら」と言ってガイを見た。



「ガイは、俺の側なんて嫌なんじゃねぇか? 俺はレプリカとは言え、ファブレ家の……」

「そんな事はねーよ」



またしてもルークの言葉を止めたガイはそう言って否定し、それから少しだけ言い辛そうに顔を顰めた。



「そりゃ……全くわだかまりがないと言えば、嘘になるがな。───なぁ、ルーク」

「……何?」

「お前が、俺について来られるのが嫌だってんなら、すっぱり離れるさ。だけど、もしそうでないのなら、もう少しだけ一緒に旅をさせてもらえないか?」



まだ、確認したいことがある。

そう言って締めた彼の目はとても静かだった。その心には、ファブレ家への憎しみが完全に消えたわけではないのだろう。しかしガイは、ルークに何かを見出した。それがなんだかはわからなかったが、けれどそれは決して悪意のあるようなモノには思えなかった。

タリスはルークがどう答えるのかそちらを見て、心の内にあった不安を直ぐに打ち消した。

だって彼の目は、決して沈んではいなかったのだから。



「わかった。俺、ガイを信じるよ……信じてくれ、が正しいのかな」

「どっちだって良いさ。これからまたよろしく頼むぜ、ルーク」



そうして二人は手を取り合い、改めて友人としての絆を築いたのだった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「ねぇ、ガイ」



ガイも動けるようになったと言う事で、改めて皇帝への謁見をしに行くこととなり、仲間達は一度支度をする為に部屋を後にした。

タリスは仲間達が全員部屋を出たのを確認すると、彼を振り返って言った。



「聞きたいことがあるの」

「ん? どうしたんだ?」



そう問い返され、タリスは一瞬言うかどうか迷ったが、直ぐに居住まいを正すとこう聞く事にした。



「ガイは、ルークの使用人なの?」

「どう言うことだ?」



何を今更、と質問の意図がわからずに首を傾げるガイにタリスは構わず続ける。



「事情はともかく、ガイは今ファブレ家の使用人としているわよね」

「そう、だな」

「そもそもの切っ掛けはファブレ家への復讐、だったわけよね。さっきの話の中で、憎んでいるのはルークのせいじゃないとは言っていたけど、復讐を諦めた……とは言っていなかったわ」

「……………」



黙り込んだガイにタリスは落ち着いた声色でもう一度問うた。



「ガイは、ルークをどうしたいの?」

「どうって、俺は……」



ガイは一度考えるように目を瞑る。その時間は決して長い物ではなく、直ぐに目を開くと心を決めたように口を開いた。



「出来る事なら、あいつとは友人でいたいよ。あいつを殺したいとは、思わない」

「そう」

「それじゃ、今は駄目かな?」



困ったように笑うガイにタリスも苦笑を返した。



「それが聞ければ、十分よ」



それでも、復讐をやめるとは言わない彼に少し悲しさを感じたが、彼のその言葉が本心である事はタリスにもしっかりと伝わっていた。

きっと、これからも皆と旅を続ける中で、自分の気持ちに整理をつけていくのだろう。

それが自分達にとってどう転ぶかはわからないが、



(きっと彼なら、大丈夫)



不安は残るが、ガイならば……きっと最善の道に進めるのだと思う。友人でありたいと願う彼らならば、本当の親友となれる日も近いのだと、タリスは確信していた。











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