A requiem to give to you
- 潮のせせらぎと友愛の歌(6/8) -



「これ、この街の限定なんだって! スッキリとして飲みやすいよ♪」

「そうなのねぇ。折角だから頂くわ」



短くお礼を伝え、受け取った飲み物のボトルに口をつける。ひんやりと冷えたそれは、暖かい気候や潮の香りとよく合う爽快感が喉を潤す感じがして………文字通り、どこか頭をスッキリとさせてくれるような気がした。



「ミントかしら? なかなか美味しいわねぇ」

「気に入ってくれたようで良かった!」



タリスの反応に満足げに頷くと、レジウィーダも隣へと腰掛けてもう一つ持っていた方のジュースを飲み始めた。

そんな彼女をタリスは横目で見ると、「あ」と声を上げた。



「だいぶ赤くなっちゃたわね」

「ん? あー……まぁ、かなり勢いよくぶつけちゃったからね」



レジウィーダはそう言いながらジュースを持つ手とは反対の手で前髪をかき上げると、露わになったその額は赤く腫れ上がっていた。



「誰かに治癒術はかけてもらったのかしら?」

「いやぁ……それどころじゃなかったし、今はもうそこまで痛くないから良いかなって」

「切れてないとは言え、時間が経つと症状が出る事もあるのよ。後でも構わないからちゃんと診てもらって」



わかった?、と念を押して言うとレジウィーダは「はーい」と苦笑して返して手を降ろした。



「……これはフィリアムの方も大変そうねぇ」

「咄嗟とは言え、体調悪そうなところに思いっきりやっちゃったからなぁ………今頃ゲロゲロになってなければ良いんだけど」



一応、敵である彼だが、見知った存在と似ているのもありどうにも心配になってしまう。それはレジウィーダも同じらしく、タリスが漏らした言葉にも驚きもせず、どことなく自分の行動に後悔したようにぼやいていた。



「……なんて、こんな事を言っていたらティアに『甘い』なんて言って怒られそうねぇ」

「ホントそれなぁ……あ、ティアちゃんと言えば、ルークを追って行ったよ」



思い出したような言葉にタリスは意外そうに丸めた。



「あら、そうなの?」

「何だかんだで面倒見良いよね。まぁ、そこがあの子の長所でもあるんだけどね!」

「そう、ね。……本当は、私やヒースが行くべきなんでしょうけど………」



恐らくヒースもルークの所へは行っていないだろう。ただ、彼の場合は己とは違い、彼自身の性格的な所だと思う。



「意外と難しいわね。”友達”って」



側にいるからと言って、一緒に過ごして来たからと言って、それは本当に友達と呼べるのか。

ガイとルーク然り、己と宙然り……片方が相手を良いように思っていないのに、友達だなんて言っても良いのだろうか。



「案外そうでもないんじゃない?」



そんなレジウィーダの言葉は、どの音よりも鮮明に聞こえた気がした。



「そもそも家族や恋人同士だって100パーセント良い感情だけであるわけじゃないだろうし。良い面も、悪い面も知ってなお、それを受け止めた上で一緒にいてくれるなら、それはもう友達ってか親友って奴なんじゃない?」

「でも、事情はわからないけどガイはルークを憎んでいるらしいじゃない」

「どんな事情だとしても、小さい頃からずっと一緒にいられたんなら、決して憎いだけじゃないと思うけどね」



憎いだけじゃ一緒にはいられない。それはそうだと思う。

本気で殺したいと思うのなら、いくらでも機会はあった筈だ。仲間から見捨てられ、残されたルークを態々単身で迎えになんてこないだろう。あの時のガイの想いは決して同情などではなく、本気でルークを心配してくれていたのだと、立ち直ってほしいと願うモノなのだと感じていた。



「それに、あたし達だってそうでしょ?」

「え?」



予想外の言葉に驚いて彼女を見ると、レジウィーダは少しだけ懐かしそうに、けれどどこか悲しげに笑っていた。



「昔、あまり君から好かれてなかったのはわかってたよ」

「そ、それは………」

「あの時は理由が全然わからなかったけど、今は少しわかるし……。それに、あたしの思い違いじゃなければ今はそこまで嫌われてないと思ってるんだけど、合ってる……よね?」



伺うようにこちらを見て問われた言葉にタリスは言葉を詰まらせた……が、



(私は今、この子のことは………………いえ、違う)



そう。違うのだ。

やっとわかった。私はこの子を、



「今も昔も、嫌ってなんかいないわ」



嫌ってなんかいない。宙との思い出は、彼女の兄や陸也、聖達と過ごした時間と同じくらい、大切なものだ。

どんなに恨み言を吐こうとも、妬もうとも、一緒に遊ぶのは楽しいし、何よりも好きなのだ。

その気持ちに、嘘はない。



「嫌われていたって感じたのなら、それは私が子供だったから。私はあなたの事も、聖も、そして陸也も………同じくらい大好き」



これは本当に本当。恋愛感情だとか、それぞれの事情だとか、そう言うのを全て取っ払って残るのは幼馴染として、そして大切な友としての確かな愛情だった。
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