A requiem to give to you
- 潮のせせらぎと友愛の歌(4/8) -



……………。



『あなたが《時の魔術師》だったのですね。私達はあなたの力が必要なのです』

『もう後には引けない。あなたが最後の希望です。………だから、私達の為に、















この世界を捨てて下さい』

『宙っ、逃げろ!!』






バチンッ






「「!!?」」



二人が触れ合った瞬間、それぞれの脳裏に一つの映像が流れる。

大きな樹。黒髪の少年。それから、こちらに声をかける白金の女性が……二人。

二人はとてもよく似ていて、その顔立ちは己らが知る者とはどことなく幼くあるが、女性の内の一人は間違いなく……シルフィナーレだった。



「───レジウィーダ、フィリアム!」



グレイの呼ぶ声にレジウィーダはハッとする。それから直ぐにぶつけた額に痛みの波が来て、悶絶した。



「いっっったあぁぁぁぁぁぁいっ!」

「……元気そうねぇ」

「自業自得だ、馬鹿」



呆れた声だが、いつも通りな彼女に安堵しながらも、グレイとタリスは薙刀を地面に落とし頭を抱えて蹲るフィリアムを見た。



「フィリアム、大丈───」

「ガイ!?」



フィリアムに近付きながら声をかけようとしたタリスのそれを遮るかのように上がった叫び。異常な雰囲気を纏ったルークの声に三人が慌ててラルゴと対峙していた筈の仲間達を振り向くと、そこにはルークに剣を向けるガイの姿が目に入った。



「ガイ! 一体どうしちまったんだよ!?」

「! カースロットか!」



ルークの声などまるで届いていないかのように、一心に殺意を向けるガイにグレイが気がついたように声を上げると、イオンもハッとして辺りを見渡した。



「どこかにシンクがいる筈です! 彼がガイを操っています!」



その言葉に全員がシンクを探そうと辺りを見渡すが、それをラルゴが許す筈がなかった。



「そうはさせん!!」



大鎌を振り、邪魔をするラルゴにティアとヒースが立ち向かう。その間に残りの仲間達がシンクの気配を探ろうとした時、突如として地面が大きく揺れ始めた。



「地震だ!」



誰かがそう声を上げると同時にそれは強さを増し、殆どの者が立っていられなくなった。

その時、ティアが僅かな気配の揺れに気が付いた。



「ナタリア、あそこよ!」



その声にナタリアは素早く弓を構えるとティアの指し示す方向へと矢を放つ。矢が木に吸い込まれるように消える瞬間、シンクが飛び出してきた。

揺れが収まってきて漸く体勢を整えたラルゴの側に降り立つと、シンクは仮面の下の表情を歪めて舌を打った。



「チッ、地震で気配を隠し切れなかったか」

「シンク!」



アニスがイオンを背に守りながらトクナガを巨大化させて叫ぶ。



「大詠師モースの命令!? それとも首席総長なの!?」

「どちらでも同じ事よ。俺たちは導師イオンを必要としている」



ラルゴがそう言うのと同時に、シンクは「それにしても」とルークを見た。



「驚いたね。アクゼリュスと一緒に消滅したと思っていたけど、大した生命力だ」

「ぬけぬけと……街一つ消滅させておいてよくもそんな!」



ナタリアが再度弓を構えるのにも怯まずシンクは鼻で笑った。



「履き違えてもらっちゃ困るね。街を消滅させたのは、そこのレプリカだろう?」

「………っ!」



ルークが息を呑む気配を感じながらも、シンクの言葉に反論したのはヒースだった。



「お前らの親玉がそうするよう仕組んだ癖によく言うよ。洗脳まがいなことまでしやがって」

「それに」



と、タリスもフィリアムの動きを気にしつつ言った。



「預言の事を知っていて、まだ理解も追いついていなかった彼に事を強いたのはそちらとキムラスカでしょう? 世間の見方がどうであれ、事実を捻じ曲げようとしないで頂戴な」



そうは言いつつも、これでは水掛け論にしかならないのはタリス達もわかっていた。それでも、彼だけを批難するような言い方が気に入らず、彼を近くで見てきた者としてただ言われるがままになんてなりたくなかったのだ。



「タリス、ヒース……」



ルークがそんな二人にどこか嬉しそうに呟いたその時、森の奥から複数の足音がこちらに向かって来るのが聞こえてきた。



「何事だ!?」



木々の間からは数人のマルクト兵が現れ、この惨状に驚きの声を上げながら槍を向ける。



「一旦、退くか」

「やむを得んな………フィリアム!」



シンクと言葉を交わしていたラルゴがフィリアムの名を呼ぶと、彼は少しフラつきながらも風の能力を発動させて自身らを浮かすと、あっと言う間にこの場から去っていった。



「………フィリアム」



こちらを振り向く事なくいなくなってしまったフィリアムに、レジウィーダは何か言いたげにその名を呟く事しか出来なかった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







マルクトの帝都、グランコクマ。別名、水の都とも呼ばれるそこは、その名に相応しく海上に造られた巨大な水上都市だった。

潮の香りが風に乗って漂い、ところどころからする水の音がとても心地よく、ケテルブルクとはまた違う観光名所としても有名だった。



(こんな時でなければ、素直に感動の一つでも出来たんだろうけど……なぁ)



最近、こんなんばっかりじゃないか?

神託の盾の襲撃の関係者として、ジェイドの帰還を待たずに連行、と言う形で帝都入りを果たす事になったヒースは小さく溜め息を吐いた。
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