A requiem to give to you- 潮のせせらぎと友愛の歌(3/8) -
「つい最近まで幹部補佐やってた身としての見解はどうよ?」
「概ね、その線の可能性は高いだろうな。ダアトがキムラスカについている以上、マルクトが共通の敵になるだけだから、最悪キムラスカが後ろ盾になるだろうし」
「うっわ……最悪じゃねぇか」
淡々と述べられる意見にルークは素直に引く。それに一層イオンが申し訳なさそうにするのを見ると慌てて居住まいを正していたが、事実なのだからアニスすらも反論出来なかった。
「それで、どうしよっか?」
と、レジウィーダがルーク達を向く。
「このままジェイド君が戻ってくるのを待つ? それとも、襲撃者を探す?」
「決まってますわ!」
真っ先に言い出したのはやはりナタリアだった。
「ここまで侮辱されて黙っているわけにはいきません。イオンには申し訳ありませんが、ダアトの数々の狼藉。これ以上見過ごせませんわ!」
だからわたくしは襲撃者を探します、そう続けられる筈だった言葉は………とある者に遮られた。
「───その必要はない!!」
「ナタリア!!」
猛々しく叫ばれた声と共にナタリアの頭上に影が落ち、それに気がついたルークが剣を抜いて駆け出しながらその名を呼ぶ。
身の危険を感じたナタリアが反射的に飛び退くと、先程まで彼女が立っていた場所には大鎌が振り下ろされていた。
「お姫様にしては、良い反応だな」
地面に刺さった刃を軽々と抜き、不敵な笑みを浮かべたのはラルゴだった。
「《黒獅子》ラルゴ!」
「侵入者はお前だったのか! グランコクマに何の用だ!」
ルークが剣を構えながら叫ぶ。それに続くように仲間達もそれぞれ武器を構えると、また別の声が響いた。
「───インディグネイション!!」
瞬間、ルークたちの頭上から神の雷が襲いかかり、激しい雷鳴と爆発音を立てて辺りを吹き飛ばした………と、思われたが
「ほう………防ぐか」
舞い上がった砂埃が晴れ、そこにはティアが展開したフォースフィールドに護られたルーク達が無傷で立っていた。
「あっぶねぇ……助かったぜ、ティア!」
「敵は強力よ。油断はしないで」
「行くぞ!」
「行きますわ!」
そう言ってルーク、ティア、ヒース、ナタリアがラルゴに向かって駆け出す。
アニスはイオンを背に辺りを警戒し、タリスとグレイが術者の気配を探る。
レジウィーダも杖を手に辺りを見渡していると……ふと、背後に迫る気配を感じ振り向き様に杖を振る。
「やっぱり来たな!」
ガキンッ、と激しい音を立てて杖に当たったのは薙刀だった。
「フィリアム!」
タリスが弓を構えながらその名を呼ぶと、フィリアムは忌々しそうに顔を顰めた。
「……元気そうで何よりだよ」
「お陰様でね! それより、」
力を込めて薙刀を振り払うと、彼はあっさりと後ろに飛んで離れた。
「そっちは随分と体調が悪そうだね」
レジウィーダがいつにも増して顔色の優れないフィリアムにそう言うと、彼は一瞬だけ眉をピクリと動かした後、無言で薙刀を構え直し駆け出さんと足に力を込めた。
迎え撃つべくレジウィーダも杖を構えるが、それを阻止するかのように首根っこを後ろに引かれた。
「うわっ!?」
「満足に戦えねー奴は下がってろ」
そう言ってレジウィーダを己の背に追いやったのはグレイだった。グレイはフィリアムを向き直すと口を開いた。
「武器を降ろせよ」
「そう言われて聞くと思ってる? アンタこそ、今用事があるのは後ろのソイツなんだ」
だからそこを退けよ、と唸るフィリアムにグレイは首を横に振った。
「それこそ出来ねー相談だな。て、言うかオレの性格的に無理だってわかってるじゃねーかよ。だから折れるのはオメェだよ」
大体、本気で勝てると思ってるのか。
ハッタリによる虚勢なのか、あるいは本気なのか。グレイは譜業銃は構えずホルスターに手を当てながらそう威嚇すると、どうやら効果があったらしくフィリアムは素直にたじろいだ。
「………、っ」
「こっちはお前と争う気はねーンだ。悪い事は言わないからさっさとラルゴを連れて帰れ」
「…………わかった
なんて言うかと思ったのかよ、バーカ」
フッ、と嘲笑を浮かべると共にフィリアムは詠唱を破棄して広範囲の譜術を放った。
「タイダルウェーブ!」
「げっ!?」
押し寄せる水流にグレイは慌ててレジウィーダを伴いタリスの方まで走って避難する。
「アイツ、術の精度上がってやがる」
「って言うか、大口叩いた癖に全然ダメじゃんかー」
呆れたようにそう突っ込むレジウィーダにグレイは「仕方ねーだろ」と返した。
「お前のレプリカだぜ? こんな事で素直に聞くとは思ってねーっての」
「ちょっと! それってどう言う意味!?」
「どうも何もそのままの意味だろうが!」
「二人とも! 今は喧嘩している場合じゃないわ!」
急に揉め出した二人にタリスが珍しく割って入る。そんな事をしている間にもフィリアムは襲撃の手は緩めず、薙刀を手にこちらへと向かって来る。
それに真っ先に気がついたタリスが牽制に矢を放つが、あっさりと振り払われてしまった。
「はあっ!!」
目の前で振り下ろされる刃をレジウィーダはグレイを押し退けると杖で受け流した。そのままの勢いで薙刀の柄を掴むと、フィリアムの頭に自身の頭を力一杯ぶつけた。
「おーらどっこいしょーーーーーーっ!!」
「い”っ!!?」
ガツーン、と鈍い音が響き渡る。それには流石のフィリアムも動きを止めざるを得なかった。
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